【書評】『元国税調査官が明かす 金を取る技術』 大村大次郎著/光文社新書/740円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
業界の内幕を暴露する本は総じて面白いのだが、この本の著者は元国税調査官。なかなか出てこない税務署の内側は、興味深いことばかりだ。
まず、きっとそうじゃないかと思っていたことが二点。一つは、国税調査官にもノルマがあるということだ。交通違反取り締まりの警察官にも、切符のノルマがあるという噂があるくらいだから、税務署にもあるのかなとは思っていたが、本にはっきり書かれると、やはりそうだったのかと納得してしまう。
もう一つは、取りやすい庶民から取るということだ。金持ちは税制に詳しく、大物税理士を顧問にしていたりするので、税金を取りにくい。それより知識がなく、お上に弱い庶民を狙った方が効率的だというのだ。これも、スピード違反で捕まっている車が、高級スポーツカーより普通の車が多いということと一致している。
そして、本書には、私がまったく知らなかったこともたくさん出てくる。一つは、税務署に捜査権はないということだ。国税庁が捜査に入る場合は別だが、普通の税務調査の場合は、調査官が勝手に家中を捜査する権利はないというのだ。「マルサの女」のイメージがあるものだから、税務署員は、無制限の捜査権を持っているような気がしていたのだが、そうではなかったのだ。
また、交際費に該当するかどうかなど、グレーな経費について判断を下すのは、基本的に納税者であり、税務署がそれを否定する場合には、立証責任は税務署のほうにあるのだそうだ。だから納税者は、自分が正しいと確信すれば、修正申告に応じなければよいのだ。
また、税務署員が使っているハッタリや脅しのテクニックは、他のビジネスの場面でも通用するものだと著者は主張している。それは事実だと思うのだが、私はそれをビジネスの場面で使うことには反対だ。著者自ら書いているように、究極の徴税テクニックは、「ヤクザになりきること」だからだ。そんなビジネス社会は、望ましいものではないだろう。
※週刊ポスト2015年2月27日号