5年任期の3年目を迎える韓国の朴槿恵大統領が1月12日、年頭の記者会見を行なった。彼女にとってこれは何と就任後2回目の記者会見である。おそらく世界の自由民主主義国家で最も記者会見が嫌いな指導者になるだろう。
正式会見でなくても、日本で記者たちが「ぶらさがり」といっている首相との立ち話的な、メディアとの接触もまったくやらない。大統領官邸(青瓦台)の記者室にぶらり立ち寄るということも過去、たった1回だけだ。
あれだけ権力批判が大好きな韓国マスコミがよくガマンしているものだと、驚く。故朴正煕大統領の娘という「貴種」として“公主(姫)”のニックネームがある彼女への相変わらずの遠慮、配慮だろうか。
朴槿恵政権になって大統領の動静がほとんど国民に伝わらなくなった。女性だから夜、側近と一杯というのもない。昼飯も晩飯も官邸で1人ということが多いらしい。
ベールに包まれた秘密主義(?)のせいか、産経新聞が名誉毀損で起訴されたような私生活疑惑(?)が街のウワサとして囁かれることになる。
日本では“首相番日誌”が毎日、新聞に掲載され首相の動静が分刻みで紹介される。また官房長官が毎日、記者会見するが、韓国で官房長官にあたる大統領秘書室長の定例会見などない。韓国が民主国家というなら少し日本を見習ったらどうか。
今回、1時間半もの長い年頭記者会見で17人の記者が質問したが、外国人記者で指名されたのは「ウォール・ストリート・ジャーナル」のたった1人。ソウルで最大の外国人記者団である日本人記者は昨年に続き今回も質問から外された。
そこまで大統領が意図的に日本に意地悪をしているとは思えないが、日本無視の姿勢を見る限り「反日政権」というしかない。
ウォール・ストリート・ジャーナル記者は大統領が期待(?)した経済問題には触れず、韓国における産経新聞事件など言論の自由制限や、親北政党に解散命令が出た「国家保安法」の問題などを質問した。
ところが大統領は言論の自由には触れず「国によって事情は異なる」と言い、中国まで引き合いに出して「それぞれその国に合う法がありうる」と述べた。
韓国の国家保安法のことだけを念頭においた発言のようだったが、これでは共産党独裁国家・中国の人権、言論抑圧にまで理解を示したことになる。
いや、この論理だと北朝鮮にも文句はいえない。世界を騒がせているフランスでのイスラム過激派による言論テロや北朝鮮による米国へのサイバー・テロにも免罪符を与えかねないではないか。
●文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
※SAPIO2015年3月号