【書評】『心の病が職場を潰す』岩波明/新潮新書/821円
【評者】福田ますみ(フリーライター)
あなたの周りに今、心の病を抱えた人はいないだろうか。私の周りにはけっこういる。最近怒りっぽくなったなあと思っていたら、双極性障害(躁鬱病)と診断され、会社を長期休職したOL。上司と衝突してうつ病を発症、同じく会社を1年休職したテレビ局勤務の男性。妄想を伴ううつ病で入院する事態になり、退職を余儀なくされた元新聞記者の女性。
私の狭いつきあいの中でさえこうなのだから、「そう言えば…」と思い当たる人は多いだろう。
本書は、患者本人ではなく、職場でそうした人の周囲にいる人たちのために書かれたものだ。たとえばあなたは、その人と仲のよい同僚かもしれないし、あるいは、その人の長期休職によって迷惑を被っていると感じているかもしれない。だがその場合、患者の病状や置かれている状況を正しく理解すれば、それなりの接し方や対処法を考えることができる。
本書では、休職や制限勤務の実情、休職後に職場に戻れる場合と戻れない場合、うつ病から過労自殺に至る最悪のケースなどを豊富な実例を挙げながら説明・分析してゆく。日本ではそもそも長時間労働が精神疾患の温床になっているのに、いっこうに根本的な手が打たれないことを著者は批判する。
しかし一方で、「新型うつ」などというマスコミで話題になっただけの、病気とはいえない病気を主張して権利をむさぼる「怠け者」に対しても容赦はない。職場における精神疾患の現実を知らしめてくれる一冊だ。
※女性セブン2015年2月26日号