安倍晋三内閣は、重箱の隅をつつくように部下の仕事を管理・干渉しようとしていると大前研一氏は繰り返し批判している。そのため、成長戦略の政策が的外れになっており、日本経済の実態を理解していないため麻生太郎財務相による企業の内部留保批判が飛び出した。この内部留保批判が、いかに的外れな指摘なのかについて大前氏が解説する。
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麻生太郎財務相は企業の内部留保が約328兆円に膨らんでいると指摘した上で、内部留保を貯め込んでいる企業を「守銭奴」と批判し、利益を賃上げや設備投資に回せと要求した。
その翌日になって、「内部留保の積み上げはデフレ不況と闘っている中で好ましいとは思わない」「利益が出れば賃上げや配当、設備投資に回すのが望ましいという趣旨だった」などと釈明したが、財務相にしてからが、なぜ日本企業が手元資金を使わないのか、使う気にならないのか、何もわかっていない。
つまり、いま企業がやっていることや考えていることと安倍政権が企業に要求していること(賃上げや設備投資)の間には、滑稽なほどのギャップがあるのだ。かいつまんで説明しよう。
今後の日本の国内市場は人口減少や超高齢化と少子化、さらに私が何度も指摘している「低欲望社会」の広がりによって、成長の余地が極めて小さく、ブルーカラーの労働力不足も深刻化する一方だ。このため企業は、もはや国内市場での「オーガニック・グロース(有機的成長=自力成長)」には限界があると感じているし、そのアイデアもない。
また、企業は政府に設備投資をしろと言われても、円高が進んだ時に多くの工場を海外に移してしまったから、国内では設備が余っている。人員も設備を海外に移したペースでは削減できていない。したがって円安になって国内生産を増やすとしても、新たな設備投資をしたり従業員を新規採用したりする必要はない。
このところの円安で一部の日本企業が国内に回帰しているという報道もあるが、私が知る限り、その大半は休んでいた工場を動かして余っていた人員を戻し、足りない分は臨時工で補っているというのが実情だ。
となると、日本企業が成長戦略を描けるのは海外しかない。しかし、海外で自前の工場と販売網をつくった日本企業が成功した例は非常に少ないので、経営者は海外でのオーガニック・グロースも難しいと感じている。だから、多くの日本企業が、海外でのM&Aグロース(企業買収による成長)を目指さざるを得なくなっている。
つまり、グローバル展開している日本企業にとって死活的かつ最も手っ取り早い成長戦略は、外国企業のM&Aであり、そのためには巨額のキャッシュと3%配当の準備が必要となる。だから、それに備えて多くの企業が内部留保を蓄積しているわけだ。ところが、そういう企業経営の実情を知らないで「守銭奴」扱いするのが、麻生財務相らの安倍政権なのである。
※週刊ポスト2015年2月27日号