ビジネス

麻生財務相が批判した企業の内部留保 貯め込む理由とは何か

 安倍晋三内閣は、重箱の隅をつつくように部下の仕事を管理・干渉しようとしていると大前研一氏は繰り返し批判している。そのため、成長戦略の政策が的外れになっており、日本経済の実態を理解していないため麻生太郎財務相による企業の内部留保批判が飛び出した。この内部留保批判が、いかに的外れな指摘なのかについて大前氏が解説する。

 * * *
 麻生太郎財務相は企業の内部留保が約328兆円に膨らんでいると指摘した上で、内部留保を貯め込んでいる企業を「守銭奴」と批判し、利益を賃上げや設備投資に回せと要求した。

 その翌日になって、「内部留保の積み上げはデフレ不況と闘っている中で好ましいとは思わない」「利益が出れば賃上げや配当、設備投資に回すのが望ましいという趣旨だった」などと釈明したが、財務相にしてからが、なぜ日本企業が手元資金を使わないのか、使う気にならないのか、何もわかっていない。
 
 つまり、いま企業がやっていることや考えていることと安倍政権が企業に要求していること(賃上げや設備投資)の間には、滑稽なほどのギャップがあるのだ。かいつまんで説明しよう。

 今後の日本の国内市場は人口減少や超高齢化と少子化、さらに私が何度も指摘している「低欲望社会」の広がりによって、成長の余地が極めて小さく、ブルーカラーの労働力不足も深刻化する一方だ。このため企業は、もはや国内市場での「オーガニック・グロース(有機的成長=自力成長)」には限界があると感じているし、そのアイデアもない。

 また、企業は政府に設備投資をしろと言われても、円高が進んだ時に多くの工場を海外に移してしまったから、国内では設備が余っている。人員も設備を海外に移したペースでは削減できていない。したがって円安になって国内生産を増やすとしても、新たな設備投資をしたり従業員を新規採用したりする必要はない。

 このところの円安で一部の日本企業が国内に回帰しているという報道もあるが、私が知る限り、その大半は休んでいた工場を動かして余っていた人員を戻し、足りない分は臨時工で補っているというのが実情だ。

 となると、日本企業が成長戦略を描けるのは海外しかない。しかし、海外で自前の工場と販売網をつくった日本企業が成功した例は非常に少ないので、経営者は海外でのオーガニック・グロースも難しいと感じている。だから、多くの日本企業が、海外でのM&Aグロース(企業買収による成長)を目指さざるを得なくなっている。

 つまり、グローバル展開している日本企業にとって死活的かつ最も手っ取り早い成長戦略は、外国企業のM&Aであり、そのためには巨額のキャッシュと3%配当の準備が必要となる。だから、それに備えて多くの企業が内部留保を蓄積しているわけだ。ところが、そういう企業経営の実情を知らないで「守銭奴」扱いするのが、麻生財務相らの安倍政権なのである。

※週刊ポスト2015年2月27日号

関連記事

トピックス

九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
“鉄ヲタ”で知られる藤井
《関西将棋会館が高槻市に移転》藤井聡太七冠、JR高槻駅“きた西口”の新愛称お披露目式典に登場 駅長帽姿でにっこり、にじみ出る“鉄道愛”
女性セブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン