「2015年、中国人が最も旅行したい国は日本」。これは米大手旅行情報サイト「トラベルズー(Travelzoo)」のアジア太平洋支社(香港)のアンケート調査の結果だ。尖閣諸島の問題に端を発した2012年以来の両国間の政治的な緊張が緩んできていることに加え、円安効果もあり、日本が人気なのだそうだ。
すでに昨年1年間では250万人前後と前年比4割増の見込みとなっている。
とはいえ、このような傾向が今年の日中関係に当てはまるかといえば、残念ながら「ノー」と言わざるを得ない。安倍晋三首相と習近平・国家主席は昨年11月、北京で初の首脳会談を行い、異口同音に関係改善に期待を示したが、依然として、尖閣問題がネックとなって、本格的な雪解けにはほど遠いというのが現実である。
習近平主席は昨年11月末、2015年の重要な外交政策を決める中央外事工作会議で、「断固として領土主権と海洋権益、国家統一を守り、島の問題を適切に処理する」と強調した。北京の中国軍事筋は「明らかに尖閣諸島をめぐる日本との対立を念頭に置いた発言だ。すでに、習主席は尖閣問題で軍事力を行使する布石を打っている」と明かす。
習主席の決意を端的に表しているのが、今年初めに発表された軍最高幹部人事だ。最も注目されるのが海軍トップである海軍政治委員人事で、何と陸軍出身の苗華・蘭州軍区政治委員(中将)が起用された。
これまで陸軍出身者が落下傘よろしく一気に海軍トップに就任した例はない。しかも、苗中将は昨年6月に蘭州軍区政治委員に就任したばかりで、「その半年後の異動だけに、極めて異例な人事で、海軍内部で反発が強まっている」と華字ニュースサイト「多維新聞網」は伝えている。
これには裏がある。同筋によると、苗中将は南京軍区の出身で、習主席と極めて近い。習主席は福建省や浙江省、上海市のトップを歴て、党最高指導部入りしたが、南京軍区は福建、浙江、上海を管轄しており、習主席は子飼いとも言える苗氏を抜擢したというわけだ。
今回の軍人事では苗中将同様、南京軍区出身者が多数登用されている。武装警察部隊司令官に就任した王寧・前副総参謀長(中将)や、北京軍区司令官の宋普選・前国防大学校長、副総参謀長の乙暁光・前総参謀長補佐らだ。
いずれにしても、軍内には「習近平閥」と言ってよい南京軍区閥が形成されつつある。しかも、南京軍区に尖閣諸島が含まれていることは見逃せない。つまり、南京軍区出身の幹部にとって、「尖閣奪還」は悲願ともいえる。
そのなかでも最も尖閣を念頭に置いているのは習主席であり、これまでの例から考えても、習主席が今後、軍権掌握の手段として、尖閣問題を持ち出してくるのはほとんど間違いない理論的な帰結である。
●文/ウィリー・ラム 翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2015年3月号