華やかさの裏に見えない掟が無数にある梨園の妻は、“妻であること自体が職業”だといわれ、覚えること、学ぶことは数え切れない。まず身につけなければいけないのは妻としての身だしなみだ。
歌舞伎界では「舞台は夫の職場、会場のロビーや客席は妻の仕事場」といわれている。夫が舞台に立つときは妻がロビーや客席に出向いて「ご贔屓筋」と呼ばれる後援会に挨拶するのが慣例だ。そのときの衣装選びには「派手すぎてもいけないし、地味すぎても華がない」という暗黙のルールがある。
二代目市川猿之助の甥にあたり、自身も歌舞伎の舞台を踏んだことがある歌舞伎研究家の喜熨斗勝(きのし・まさる)さんが話す。
「絶対にやってはいけないのはご贔屓筋の奥様がたや、序列が上の役者の奥さんより華やかで高価な着物で目立ってしまうことです。では、地味にすればいいかというとそうではない。あまりに安い着物や地味なものでもダメで、“あの着物、ほんものじゃないわよね”などと、陰口をたたかれることにもなりかねません」
市川海老蔵(37才)の妻、小林麻央(32才)も着物選びで“洗礼”に遭ったひとり。
「お嫁さんになりたてのころ、麻央ちゃんはとても若い娘さんとは思えないような地味な水色の着物を着ていて一部の人たちから、“ドラえもんみたいね”と失笑を買っていました。それからはしっかりお勉強したようで、その後は失敗もなくなったようです」(歌舞伎関係者)
とはいえ当日まで、誰がどんな着物を着てくるかはわからない。その日の気候や夫が演じる演目を考慮して着物選びをしなければいけない。
「猛暑なのか雨なのか天気でお客様はどんな色を着てくるか予想し、その日の演目に合った素材や柄を選ぶのです」(前出・歌舞伎関係者)
※女性セブン2015年3月5日号