【マンガ紹介】『繕い裁つ人(6)』池辺葵/講談社/648円
大好きなマンガがまたひとつ完結しました。『繕い裁つ人』。中谷美紀主演映画も公開中の作品です。祖母から受け継いだ「南洋裁店」で町の人たちのために服を仕立てる「頑固じじい」のような女性・市江のお話。
今回は事情がありそうな女教師に〈真っ黒なフォーマルワンピース〉を仕立てます。仮縫いの段階でも〈ぺちゃんこ胸 しっかり肩〉の体を美しく見せる服は、教師の心を浮き立たせますが、本縫いで出来上がったワンピースには、市江の計らいで繊細なレースの白い襟が。〈洋服でこんなに幸せな気持ちになれるなんて 全然知らなかった〉。彼女のこれからの人生に、確かに光が差すさまを読者は目にします。
市江には、百貨店勤務で彼女の服にほれ込んでいる、藤井というよき理解者の男性がいます。最終巻では藤井のパリ出向に、市江がついていくのかどうかが、ひとつの焦点になります。が、それは「恋愛ドラマ」としての盛り上がりとなるだけではありません。
子供のころから約30年、この場所でずっと、〈人の幸福ばかり願って洋服を仕立ててる〉と言われる市江自身の幸せとは何なのか、ひいては、人の幸せとは、人生とはなんなのか――そんなところにまで、読者の思いは及ぶのです。
市江の母は、言います。〈市江が南の主人であることに 幸も不幸もないんだろうって 最近は思うのよ〉。人生についての静かな、けれど確信に満ちた言葉が、市江の穏やかな表情と共に、いつまでも心に残ります。
(文/門倉紫麻)
※女性セブン2015年3月5日号