夫や娘との幸せな日々は、夫の不倫によってあっけなく崩壊する。しかも相手は自分のママ友―現在公開中の中国映画『二重生活』が描き出したあまりに危うい現実は、私たちの足元でも今、起きている。小説『ランチに行きましょう』でママ友の虚と実を綴った作家・深沢潮さんによる特別寄稿。
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夫の不倫を知ったとき、妻は途方にくれる。ましてやその相手が仲の良いママ友だったとしたら、ものすごいショックと怒りで、体が震えてしまうかもしれない。
映画『二重生活』においては、夫の愛人がママ友として妻に近づいてくる、というなんとも恐ろしい展開。ママ友に夫を寝取られるということは、富裕層が愛人を持つことが珍しくない中国社会においての特殊な状況かと思えるのだが、実は決して他人事ではなく、日本でも現実に起きている。
私は小説の取材として多くのママたちに話を聞く中で、実例をいくつも耳にした。ママ友の夫を実際に寝取ったという女性からは、直接話を聞くことができた。
某名門大学附属小学校の保護者は卒業生が多く、大学時代の同級生同士がパパ、ママとして子供の学校行事に参加していた。狭い世界だと驚きつつも、運動会の打ち上げの飲み会で、2人は学生時代の話に花が咲き、意気投合する。
男の妻は、子供の預け先がなくて飲み会に参加していなかった。「また飲もうよ」ということになって連絡先を交換し、その後2人きりで飲んだ席では、共通の知り合いや昔のこと、同じ年齢の子供の話で会話も弾み、久しぶりのときめきを感じる。まったく知らない人ではないという安心感は、家庭を壊さずに楽しむ軽い気持ちの火遊びにはうってつけだったのか、2人は一線を越えて不倫関係になった。
話を聞く限り、そこに罪悪感があるようには見えなかった。そもそも不倫に対するハードルはとても低いように思われた。“美魔女”という言葉をよく聞くが、小学生の母親は30代から40代で、子供も少し大きくなり、容姿に気を配る余裕が出てくる。今でも自分が「女」としてイケてると思いたい人も多い。中には、夫以外の男と恋愛する、あるいは性の対象となることができると確かめることで、「女」として認めてもらいたい気持ちを満たす人もいて、彼女もその1人。夫は、子供には優しいが仕事に忙しく家を空けがちで、さらには子供が生まれて以来夫婦はセックスレスだった。
そして、幸か不幸か、相手は枯れていない男。若い独身女性に手を出して本気になられ、家庭を壊されるようなことになるのは嫌だ。しかし相手が妻のママ友であれば、ダブル不倫の後ろめたさでお互いに立場をわきまえているから、絶対に面倒なトラブルは起きないに違いないと愚かにも信じ、深く考えずに禁断の関係になったらしい。
子供が寝ついたあとに女が家を出て飲み屋で落ち合い、ラブホテルに入る。あるいは男の方が半休をとって、子供が学校に行っている間、真っ昼間からシティーホテルのデイユースで情事にふける。そんなテレビドラマのようなことを繰り返した。
「不倫相手の妻がママ友というのはどんな気持ちだったのか」と聞いたら「かえって仲よくしようと思うようになった」「ママ友を騙しているのが快感だった」と答えた。「彼の子供が、以前よりかわいく思えるようになった」とまで言う。その悪びれなさが恐ろしい。
※女性セブン2015年3月5日号