歌舞伎の世界は厳しい世界。そこに嫁ぐ“梨園の妻”たちにはいくつも試練が待ち受けている。もちろん、夫の評判を落とさないように振る舞い、夫を盛り立てることも梨園の妻の使命だが、他に重要な役目がある。それは、伝統文化を継承する跡継ぎを産むことだ。
例えば、中村橋之助夫人で女優の三田寛子(49才)は3人の息子を産み、歌舞伎役者にすべく子育てに奮闘している。二代目市川猿之助の甥にあたり、自身も歌舞伎の舞台を踏んだことがある歌舞伎研究家の喜熨斗勝(きのし・まさる)さんが話す。
「歌舞伎役者の妻に求められるいちばん大切な任務は、その家に代々伝わってきた芸を途絶えさせないこと。これは梨園に入るといちばんに教えられることです。三田さんや麻央さんは大変なプレッシャーのなか、立派にその役目を果たしています」
しかし、男児を求められても、すんなりといくケースばかりではなく、なかにはつらい思いをする人も。尾上菊五郎夫人で女優の富司純子(69才)もそのひとりだ。長女の寺島しのぶ(42才)を出産したものの、その後は男児がなかなかできず、不妊治療をしたという。かつて富司は次のように告白している。
《梨園に嫁いだ以上、家代々伝わる芸を継承させる、次にバトンを渡すという責任があります。しかも芸を継げるのは「男の子でないと」という規律がありますから。結婚してすぐに妊娠したものですから、次もすぐにできると思っていたんです。でもなかなかできない。「次のお子さんはまだ?」「こんどは男の子ならよろしいのにね」という何気ない一言もプレッシャーになりました》(『女性自身』2006年12月19日号)
富司は、不妊の名医にかかること1年。長男、菊之助(37才)を授かった。男の子が生まれれば今度はすぐに将来を見据えた芸事の稽古が始まる。
遊びたい盛りの小さな息子を稽古に向かわせるのは大変な仕事だ。舞踊、鼓、太鼓や三味線、長唄などの稽古と並行して学業も疎かにならないよう、母親のスケジュール管理能力が問われる。
「息子を跡取りとして一流の役者に育て上げるため、稽古が嫌いにならないよう褒めたりおだてたり、時には厳しく叱ったり。稽古に通わせる送り迎えも妻の仕事です」(歌舞伎関係者)
※女性セブン2015年3月5日号