映画史・テレビドラマ史を研究・執筆テーマにしてきた春日太一氏による名優たちの金言を発掘する『週刊ポスト』連載「役者は言葉で出来ている」をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発刊された。それを記念した俳優・松方弘樹と春日氏との対談から、松方が「文ちゃん」と呼んで慕った菅原文太(享年81)との思い出について語った言葉をお届けする。
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春日太一(以下、春日):拙著では松方さんの役者人生や演技論について詳しくうかがいましたが、今回はこれまで共演されてきた役者たちの話をお聞きします。まずは先日惜しくもお亡くなりになった菅原文太さんです。松方さんとは『仁義なき戦い』シリーズをはじめ数多くの作品で共演されてきました。
松方弘樹(以下、松方):文ちゃんは僕より9つ上でしたが、めちゃくちゃ近しい関係でしたね。とにかく男気があって、懐の深い素敵な人でした。
僕は40歳の時に『修羅の群れ』(1984年)という映画に主演したのですが、すでにこの時、文ちゃんは『トラック野郎』シリーズなど大ヒット作ばかりに出ていたトップスター。それなのに、僕のために黙って出演してくれて。
春日:菅原さんは1960年代半ばに松竹から東映に移籍して任映画で頭角を現わしました。その頃、松方さんはすでに東映の若手スターの一人でしたよね。
松方:初めは反発がありました。横から入ってきて、僕がやっていたような役を取っていったわけですから、そりゃ頭に来ますわな。
僕や伊吹吾郎はその次の次ぐらいの役でね。あの役は本来なら俺の役なのにと思っていました。俳優として、追いついてやろう、追い越してやろうと一番思っていた相手が文ちゃんです。文ちゃんがいてくれたから、僕も頑張れたという部分はあります。
春日:普段の菅原さんはどんな方でしたか?
松方:『トラック野郎』そのままですよ。酒に飲まれるタイプなんです。飲み始めは『木枯し紋次郎』みたい。まぶしそうな顔で飲んでいるからホステスも寄ってくる。ところが、酒が進むうちに段々と『まむしの兄弟』になっていくから、女の子がいなくなる。
飲んだあくる日、撮影現場で会うと反省しているわけ。「おい、弘樹。どうして俺はモテないんだ」って。「『木枯し紋次郎』の時は凄くモテてたじゃないですか」と言うと「そうか」と答えるんですが、また次に飲みに行っても同じなんです。
【お知らせ】
『役者は一日にしてならず』と『時代劇は死なず!完全版』(春日太一著・河出文庫)の発売を記念して、能村庸一氏(ドラマ『鬼平犯科帳』『剣客商売』などのプロデューサー)と春日氏のトーク&サイン会を開催します。3月11日(水)19時~、紀伊國屋書店新宿本店にて。入場料700円。
※週刊ポスト2015年3月6日号