「ハインリッヒの法則」なる言葉が最近、韓国メディアで盛んに飛び交っている。「1つの重大事故の背景に29の軽度事故と300の異常がある」という安全管理の経験則のことだ。
トラブルが頻発し、“そのうち倒壊するのではないか”と不安視されているのが、昨年10月にソウルで一部開業した複合商業施設「第2ロッテワールド」。
完成時(2016年)には韓国一の超高層ビル(555m)になる予定だ。いま韓国では“123階建てのセウォル号”と呼ばれ、ビルは閑古鳥が鳴いている。
発端は開業前の2013年6月、工事現場の足場などが落下し作業員1人が死亡、5人が重軽傷を負う事故だった。続いて昨年4月には冷却水のパイプが爆発し、作業員が死亡。開業後の昨年10月には天井のインテリアが落下して職員の頭を直撃した。
さらに、ビルの中にある水族館からは大量の水が漏れ、映画館は激しく振動したためいずれも営業停止に。低層階のフードコートの床や太い柱には多数の亀裂が走った。
建築業者が亀裂について「昔の雰囲気を演出するため意図的に作った」と弁明したことでさらに韓国国民の不安を煽った。昨年12月にはコンサートホールの工事中に作業員が死亡する事故や、大型ドアが倒れて20代の女性が怪我を負う事故が発生した。
さすがにロッテグループも危機感を募らせ、2月11日には運営会社、施工会社、テナントの従業員ら1300人からなる安全担当チームを発足させた。ところが、皮肉にもそれがさらに人々の不安を煽った。
「発足式で“安全”を象徴する緑色のテープでロッテワールドの周囲1.2kmを囲むパフォーマンスを行なったが、“みんなで『気』を集めてどうするのか”、“安全管理を科学ではなく迷信で解決しようとしている”といった批判が噴出した」(韓国紙記者)
“地鎮祭”の効果がなかったことはすぐに露呈する。パフォーマンスの4日後の15日、再びドアの脱落事故が発生し、来場客が負傷したのだ。
事故を受けてビルの安全管理委員会は、「ドアの接続部分に使われたドイツ製品の溶接不足が原因」と説明。「セウォル号は日本製だった」と主張したのと同様、他人のせいにするのは韓国のお家芸だ。
もはや客が寄りつくはずもなく、オープン当初は1日平均10万人を数えた来店客は昨年12月は7万人、今年1月は5万3000人にまで減少した。
※週刊ポスト2015年3月6日号