【書評】『ブルネイでバドミントンばかりしていたら、なぜか王様と知り合いになった。』大河内博/集英社インターナショナル/本体1600円+税
大河内博(おおこうち・ひろし):1967年東京都生まれ。日本大学農獣医学部卒業。経済産業省(当時、通産省)に入省。2013年退職して家族とともにブルネイに移住し、日本企業のイスラム圏への進出をサポートする企業を設立。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
経済産業省石炭課に勤務する技官だった2005年夏から5年間、著者は経済担当の書記官としてブルネイの日本大使館に勤務した。ブルネイは人口わずか40万人、面積は三重県ほどだが、石油と天然ガスで潤う資源国で、君臨する王族は世界一の富豪と言われている。本書はそのときの体験記である。
赴任して数か月、著者は仕事もうまくいかず、大使館内の人間関係にも悩まされた。そんなストレスを解消するため、中学高校時代に親しんだバドミントンを再開する。実は、イギリスの植民地だったブルネイでは、イギリス発祥のバドミントンは王族から一般の人までが当たり前のようにプレーを楽しむ国民的スポーツだ。
そのことが、著者に思いもしない幸運を呼び寄せた。地元の大会に出場し始めたことをきっかけに、大臣の息子とバドミントン仲間となり、やがて当の大臣ともプレーするようになる。
そして、縁がさらなる縁を呼び、(国王と離婚した)元王妃、国王の義弟、国王の娘婿らともプレーし、王子、王女、ついには国王とも面識を持つに至る。大使ですら簡単にはロイヤルファミリーと会えないことを考えると、それは奇跡のような出来事だった。
そのおかげで、著者が仕事でブルネイ政府を訪ねると、どの部署でも、次回以降の打ち合わせからは高官が加わるようになったという。“小国”ゆえに可能だったとも言えるが、〈バドミントン外交〉を展開したわけである。
難しい国際情勢を解説し、タフな交渉の内幕を描いた外交本と違い、ここには、赴任に同行した妻と幼い娘が抱えた悩みなども含め、最前線の外交官の等身大の姿が率直に描かれている。爽やかな読後感のある一冊だ。
※SAPIO2015年3月号