ISIL(イスラム国)の残虐非道ぶりが世界じゅうで非難され、怖れられている。オバマ大統領も掃討のために地上軍投入を表明し、米国が次にどのような動きをするのかに注目が集まっている。米国の中東政策とは、どんなポリシーの元に遂行されているのか、大前研一氏が解説する。
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人質の日本人2人やヨルダン軍パイロットらを殺害したイスラム教スンニ派過激組織「ISIL(イスラム国)」の非道さが世界を震撼させている。アメリカ主導の有志連合軍による空爆は続いているが、未だ事態は沈静化することなく、長期化の様相を呈している。
そもそも、今の中東・アフリカ各地でイスラム原理主義が猛威を振るうようになった背景にあるのは、アメリカのご都合主義の中東政策だ。
たとえば、アメリカはイラクを民主主義国家にするという名目でスンニ派の独裁者サダム・フセインを倒したが、民主的な選挙の結果、多数派のシーア派が政権を握り、それにスンニ派やクルド人が反発して国内が不安定化した。そして、そのプロセスで旧フセイン軍の残党らとアルカイダから分派したスンニ派の過激派組織が融合してISILが誕生したとされている。
アメリカはエジプトにもちょっかいを出している。エジプトでは「アラブの春」でムバラク独裁政権が崩壊した後、民主的選挙でムスリム同胞団が政権を握った。するとアメリカは、ムスリム同胞団はイスラム過激派の源流だなどと言い始め、軍事クーデターを仕掛けて政権を転覆したのである。
もともとアメリカの中東政策は、内政上重要なユダヤ勢力の支援を受けるためにイスラエルを守ることと石油利権を確保することが主目的で、それを脅かす国をランダムに冷戦後のターゲットにしてきた。
また、民主主義からほど遠い王国サウジアラビアと友好関係を構築してきたが、オバマ政権がスンニ派のサウジが脅威とみなすシーア派のイランと核協議を進めているため、最近は関係がぎくしゃくしている。
要するにアメリカに主義主張はなく、自国に都合が良ければ擁護し、都合が悪ければ攻撃するだけなのだ。ISILやイエメンの「アラビア半島のアルカイダ」、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」などのテロ組織は、そうしたアメリカの中東政策の綻(ほころ)びから生まれて勢力を拡大しているのである。
結局、湾岸戦争以降の中東政策の間違いを反省しないアメリカが最大の攪乱(かくらん)要因なのである。にもかかわらず日本はそれに追従して地球儀外交ならぬ“地球規模のバラ撒き外交”を展開し、イスラム国のテロ対象になってしまった。
※週刊ポスト2015年3月6日号