さだまさしの名曲『風に立つライオン』に大沢たかおが惚れ込んで、小説、映画化を熱望。さだが曲を発表してから28年の歳月を経て、ついに完成した映画『風に立つライオン』が3月14日に公開される。「この作品は早く見たいね」と微笑むさだと、「初日を迎えるまで、1ミリも気が緩みません」と語る主人公の医師・島田航一郎役を演じる大沢。そんなふたりが公開を前に作品への思いを語り合った。
2月某日。小雨の降る渋谷のスタジオに先にやってきた大沢の元に、笑顔のさだが近寄ると、その場の雰囲気は一変。パッと華やぐ。そして、ふたりはがっちりと握手をし対談は始まった──。
さだ:大沢くんが、『風に立つライオン』の歌を気に入ってくれているというのは、10年も前に、ぼくには伝わっていたんですよ。で、7年くらい前かな、ぼくのコンサートにゲストで来てくれたときに、「『風に立つライオン』を映画にしたいから、小説を書いてください」って言われたんですよね。
大沢:ぼく自身、人生とか、子供の頃から思っていたことや感じたことが、あの歌の主人公の心の叫びみたいなものとすごく共鳴して、ひとりの俳優としてお願いしたんです。
さだ:ぼくは、適当に『わかりました』って(笑い)。小説にするのは大変だなと思っていたし、できるとは思っていなかったです。ところが、それから2年ほどして、『さださん、書く気はあるんですか』って、もう一度念を押されたので、思わず『今書いている』とうそをついて(笑い)。
大沢:映画を見ていただくと、あの歌からぼくが最初に感じたことがわかっていただけると思うんです。そして、ぼくの思いのバトンが多くの人に渡せたらいいなというのが、今いちばんの希望なんです。
――さだが『風に立つライオン』をリリースしたのは、1987年秋のこと。長崎大学熱帯医学研究所からケニアに派遣された実在の医師・柴田紘一郎氏の体験にインスパイアされて作詞作曲したのだが、構想から完成まで15年を要したという。
さだ:忙しくて、実際にはアフリカに行く時間もなくて作りましたから、自分の中にアフリカを作り上げるまでに15年もかかったんです。でも、それだけの時間をかけたから、今回、大沢くんについてアフリカに行って、サバンナに降り立ったときに、初めての土地だというのに違和感というものが全然なかった。ただ、風だけは想像しなかった。ナイロビの空港に着いた途端に、『やっぱりこの風がすごいね』って、大沢くんに話しかけていましたね。
大沢:ぼくは何度かアフリカには行っているんですけど、さださんが空港でぽろっと『日本では味わえない風ですね』っておっしゃったのを聞いて、初めて、“ああ、そうだ”って。
さだ:ぼくらが普段言っている“風”というのは、低気圧・高気圧に関係ありますよね。でもね、そういう気配じゃないんだよね。ただ吹いている。吹き抜けていくんですよ。それも、強風でもなし、微風でもない。ああ、風ってこういうのかなということにまず驚いた。
で、サバンナに行って、なんともいえない息の長い風を感じたときに、同行してくださった柴田紘一郎先生の、『この風を味わってほしかった』という言葉に納得しました。行きもしないで書いた歌に、よくもまあ“風に立つ”と、“風”を入れたなって思いましたね(笑い)。
大沢:(笑い)。
さだ:その瞬間に、『ああ、この歌はおれが作ったんじゃないんだ』っていうことがわかりました。きっと、いただいたんでしょうね。まして、小説に書く気はなかったから、途中で3回ほど投げ出しそうになりました、これは無理だって。だって、あの歌を裏切りたくないじゃないですか。あの歌に描かれている光景だとか人間関係をどう描くか、最後は力技ですよ。言い換えれば、強引な一本背負いっていうやつですね(笑い)。
※女性セブン2015年3月12日号