今年もいよいよプロ野球の開幕が近づいてきた。開幕戦では各チームのエース級投手が勢揃いするが、2月20日、日本ハムの栗山英樹監督は、今季の開幕投手を大谷翔平に決めたといち早く発表した。このままアクシデントがなければ、3月27日の楽天戦(札幌ドーム)で大谷がプロ3年目で初の大役を担うことになる。
近年では、両リーグとも予告先発制が採用されており、事前に開幕投手がわかるシステムとなっている。だが、以前は、開幕当日まで先発は発表されず、スポーツ紙の予想が外れることもあった。
印象深い開幕戦のひとつに、1987年の巨人対中日(後楽園球場)が挙げられる。この年、2年連続三冠王の落合博満がロッテから1対4の大型トレードで中日に移籍してきた。迎え撃つ巨人は、落合が『ナンバーワン投手』と称するエースの江川卓を立ててくると予想されていた。しかし、フタを開けてみると、王貞治監督率いる巨人は前年7勝の西本聖を持ってきた。
すると、西本は得意のシュートで内角を攻め続け、落合を封じ込め、チーム30年ぶりとなる開幕完封勝利を挙げた。スポーツライターが語る。
「このシュート攻めは、当時のセ・リーグ各球団がマネしたため、落合は調子を崩し、無冠に終わった(前年の打率.360、50HR、116打点=三冠王→.331、28HR、85打点へ)。もし予告先発であれば、落合も心構えがまったく違ったはず。予告先発ではないからこそ、ドラマが生まれた。最近は、開幕投手は予告先発で事前にわかるどころか、かなり早い段階で発表されてしまう。スポーツ紙とすれば、キャンプ、オープン戦のころはネタに困っているから、栗山監督の発言はありがたいでしょう。
しかし、サプライズがあってこそのプロ野球。2004年、中日の落合監督は3年間一軍登板のなかった川崎憲次郎を開幕投手に抜擢。ファンを驚かせました」(同前)
そもそも、開幕投手の予告先発は、1983年にパ・リーグが始めた。当時のパ・リーグは人気がなく、集客のために必死だったのだ。1994年以降は毎試合、予告先発になり、セ・リーグも2012年から導入している。
「歴史を振り返ると、各球団には“予告先発=ファンサービス”という意識が根底にある。しかし、最近の実態は必ずしもそうとは言えない。実際、全試合予告先発制にしたことと観客動員アップのあいだに、相関関係は見られない。
首脳陣からすれば、予告先発制ならば、オーダー作りで苦労しないで済む利点がある。また、相手先発に迷わなくなるので、無駄なミーティングも減る。“ファンサービス”は表向きで、実態は“自分たちの仕事を楽にするため”という面が浮き彫りになっている。
開幕投手の事前発表は良いことなのか。ファンが推理する楽しみやサプライズを完全に奪っている。この点を、今一度、考え直す時期に差し掛かっているのでは」(同前)