さだまさしの名曲『風に立つライオン』に大沢たかおが惚れ込んで、小説、映画化を熱望。さだが曲を発表してから28年の歳月を経て、ついに完成した本作がいよいよ幕を開ける。原作者であるさだと、主役の医師・島田航一郎を演じる大沢が、3月14日の公開を前に作品への思いを語り合った。
映画には東アフリカの自然と、そこに生きる人々の暮らしの厳しさや尊さが、余すところなく描かれている。時代背景は歌が書かれた1980年代後半。医療事情はもちろん、内紛が続くアフリカの政治や経済事情も織り込まれているだけに、撮影のエピソードにも事欠かない。
さだ:過酷な自然、その中に建つ病院のリアリティーは、大沢くんのプランも大きいでしょう。
大沢:うそをつかない、それにつきると思いました。同じ草原を撮るのなら、例えば、ニュージーランドなどの気持ちのいい、安全な場所でロケすることも当然できる。でも、それではうそになると思いました。それはスタッフも同じで、例えば草ひとつとっても、1980年代後半に実際にどういう草や木が生えていたのか、当時を知っている人に確認しながら忠実に再現する、という感じでした。ロケ場所は、宿舎から2時間半とか3時間かかるような場所でした。しかも、水もないし、日陰もないようなところで。
さだ:それでも撮り続けたのは、大沢くんの熱意がみんなを動かしたんだね。
大沢:いやあ、プロフェッショナルとしては当たり前のこととしてやっているのですが、それプラス、意味や意義のような深いところで何かを持っていたような、異常な熱の現場でした。それと、子供たちの心・汗・目などすべて、みんなで撮っているんだという気迫がありました。
さだ:映画の中で重要な役を果たす子供たちって、現地の子供たちでしょ?
大沢:メーンになる子たちのなかにはスラム街の子もいました。それまでペットボトルで水を飲んだこともないというので、ペットボトル1本渡されると困ってしまって…。冷たいものも飲めないんです。彼らは冷蔵庫で冷やしたものを飲んだこともないから。
さだ:それ、今、現在の子供たちの話だよね? 1980年代の姿じゃなくて。
大沢:もちろん。1本のペットボトルの水でもみんなで分け合って飲んだりして。普段は食事も3食好きなだけ食べられないから、撮影現場に用意されるケータリングの食事にびっくりしてました。
そういう生きることに必死な子たちなので、ただ立って画面に映っただけで、こっちが怖いなと思うんです。演技学校で習って必死な表情をするのとは根本的に、目の輝きが違う。この作品にはそういう力が絶対に必要だし、いちばん大事なメッセージのひとつでもありました。
ぼく自身も大沢たかおという仮面をはがしてもらえると思いましたし、また、そうでなければ、うそになってしまい、子供たちに対峙できませんでした。
さだ:うん、うん。絶対大変だったと思いますよ。
大沢:スタッフも出演者もみんな日焼けどころか、焦げていました。しかし、誰ひとり弱音を吐く人はいなかった。
さだ:アフリカっていうところはそういう命の重さを感じるところなんだよね。このところの事件でお気づきだと思いますけど。内戦もテロも、飢餓もあるし…。撮影の許可も簡単には下りないんでしょう?
大沢:確かに、ぼくらのロケだって楽な時期ではありませんでした。銃を持った警備付きで撮影をしましたし…。
※女性セブン2015年3月12日号