《キュウリの漬物を手で食べたので注意したら、「は・し・や・す・め」と言われました。》
《息子が、あまりに偉そうな口をきくので「ナニ様のつもり?」とたしなめたら、「…お子様」との返し。あのねえ。》
《宿題を少しやっては『疲れた~』と投げ出す息子。『遊んでるときは全然疲れないのにね』とイヤミを言ったら『集中は疲れるけど、夢中は疲れないんだよ!』》
クスッと笑いが込み上げ、思わず「息子、うまい!」と感心してしまうそんな親子の会話は、歌人・俵万智さん(52才)と愛息・たくみん(愛称・11才)のやりとりだ。俵さんが自身のツイッターで息子の日常のつぶやきを綴ったところ、小学5年生とは思えない小粋な言葉のセンスに「母親のDNAを感じる!」とネットで話題となり、たくみんの発言を集めたまとめサイトが登場するなど注目を集めている。
たくみんは幼稚園児だった頃、おんぶされた従兄弟を見て「お母さん、オレも背中で抱っこしてほしい」とせがんだという。「おんぶ」という言葉を知らないがゆえ、「背中」と「抱っこ」を組み合わせる感覚は確かに詩的といえる。
その後、いかにして、彼は数々の名言を紡ぎ出すようになったのか。俵さん流の子育てを聞いた。
「息子には生後半年くらいから、絵本を読み聞かせていました。ぶたを食べたことのないおおかみにきつねがぶたの種をあげるという、『ぶたのたね』(絵本館刊)はお気に入りの絵本で、今でも全文暗唱できます。
一時期は、育児雑誌の『たまごクラブ』(ベネッセ刊)に夢中になっていましたね。“自分と同じような形の子”がたくさん載っていたから、興味をひかれたんでしょうか(笑い)。ことさら言葉に興味を持つように仕向けたわけではないですし、そういう教育法でもないんです。
ただ、私が言葉好きなので、彼がなにかユニークなことを言うと喜んだり、さらに掘り下げたりします。例えば息子が、『“消しゴム”は漢字とひらがなとカタカナが全部入っていてすごい』と言えば、『じゃあ、“ソースかつ丼”はどうかしら』など私も夢中になってあれこれ考える。息子はそうしたやりとりから、“言葉というのは面白いな”と思うようになったのかもしれません。親が一緒に面白がることで、子供の言葉の畑が耕されるんでしょうね」(俵さん・以下「」内同)
たくみんが幼稚園の頃から親子で熱中していた言葉遊びのひとつは「しりとり」だという。
「例えば、『ス』で終わる言葉をお互いに言い合う。カラス、テラスなどから始まってバトルが白熱してくると、『ス』で始まり『ス』で終わる言葉でお互い攻め合うんです。ストレス、スライス、スーツケースなどいっぱいあります。そのうちに『3DS、これはいいのか』
なんて脱線し始めたりもして。言葉を話題にすれば私の機嫌がよくなると知っているから、最近では叱られると、『鵜呑みの語源ってなんだっけ』なんて、聞いてくるんですよ。私も『丸のみをする鳥がいて、そこからね…』といった具合にたちまち機嫌がよくなっちゃって、『う、やられた!』なんて(笑い)」
子供独特の感性から教えられることは少なくない、と俵さんは言う。
「息子が小学3年生の頃に『先生はよく前を向きなさい! って言うよね。でもさぁ、オレにとっては、見ている方が前なんだよね』って言ったんです。
大人は『教室で前といえば先生がいる方』と頭の中で自動的に変換して比喩的に『前』という言葉を使う。だから、『前』という言葉に純粋に向き合う彼の発言にハッとしました。私自身も大人の頭ではなく、なるべくまっさらに物を見たいと思うようになりました」
※女性セブン2015年3月12日号