予備群も含めれば2000万人という国民病である糖尿病。予防やダイエットのために、「糖質ゼロ」「カロリーオフ」を謳う飲料・食品に手を伸ばす人は少なくない。ところが健康を気遣って選んだはずなのに、かえって病気のリスクが高まるという研究がある。
「糖質ゼロ」「カロリーオフ」の飲食物には糖質が含まれていないにもかかわらず、しっかりと甘みがある。「人工甘味料」によるものだ。
その人工甘味料について、2014年9月に興味深い研究報告が英科学誌『ネイチャー』に発表された。イスラエルのワイツマン科学研究所のチームが行なった実験で、マウスを3つのグループに分け、それぞれ「普通の水」「ブドウ糖を含んだ水」「人工甘味料を含んだ水」を与え続けて経過を観察した。順天堂大学大学院医学研究科の白澤卓二教授が説明する。
「実験結果は、『人工甘味料が糖尿病リスクを高める』ことを示唆するものでした。人工甘味料を与えられていたすべてのマウスが2型糖尿病を引き起こす『耐糖能異常』を示したのです」
これまでも人工甘味料によって糖尿病リスクが高まる可能性を指摘した研究はあり、学会では古くて新しいテーマだった。
国内では、2013年に富山県の工場で働く2037人の男性(平均年齢46.2歳)を7年間にわたって追跡調査し、人工甘味料の入ったダイエット用飲料と糖尿病リスクの連関を調べた研究がある。この研究では、ダイエット飲料を週に1本(250ミリリットル)以上飲む男性は、めったに飲まない男性に比べて糖尿病発症リスクが1.7倍になるとの結果が出ている。
海外ではさらに大規模な調査がある。2013年2月に報告されたフランス国立保健医学研究所の研究では、約6万6000人のフランス人女性を14年間追跡調査した。その結果、ダイエット炭酸飲料を1週間に500ミリリットル飲む人と通常の炭酸飲料を同量飲む人では、前者のほうが糖尿病になる割合が15%高かった。飲む量が多いグループ同士では、その差はさらに広がった。
「ただし、これまでの研究では人工甘味料が糖尿病を引き起こしているかどうかの因果関係は不明瞭でした。人工甘味料によって味覚が鈍るなどして、他の食事の際に糖質を摂り過ぎてしまった結果だとする見方などがありました。
今回のイスラエルのチームの研究は、『どういったメカニズムで人工甘味料が糖尿病を引き起こすのか』という疑問に答える材料を提示したのが興味深い点です」(管理栄養士でフードコーディネーターの安中千絵氏)
※週刊ポスト2015年3月13日号