世界のホームラン王、王貞治氏が50打席以上の対戦投手の中で最も苦手にした投手といえば、野球評論家の江本孟紀氏である。通算打率は1割台、本塁打をわずか1本におさえられたのは「ノムさん(野村克也)のおかげ」と江本氏は言う。南海ホークス所属時代に監督だった野村氏について、江本氏が語った。
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ノムさんは川上(哲治)監督を信奉していました。森(昌彦)さんと仲が良かったので、川上監督のことをいろいろ聞いていたんだと思います。川上さんの精神論的な部分も採り入れようとして、川上さんが禅の高僧に教えを乞うていると聞いたらノムさんも真似していた(笑い)。
ただ戦術的な部分についてはノムさんは自分の方が上だと思っていたはず。その点では牧野(茂)コーチにライバル心を持っていたかもしれません。それにもちろんON、特に長嶋(茂雄)さんには負けたくないという思いが強かったですから。
ONといえば、僕は現役時代は王さんを得意にしていたんですが、これも南海時代にノムさんに相手を研究するクセを叩き込まれたからです。
王さんが大洋の平松(政次)や中日の星野(仙一)さんと対戦した時のデータを見ると、王さんには欠点がないことが分かる。特に苦手なコースがない。そこで思い出したのがノムさんがよく言っていた「短所がない場合は長所を探せ。見えない短所は長所のすぐそばにある」という言葉です。
僕は王さんの長所は一本足だと思い、そのタイミングを外そうと考えた。振りかぶった時にタイミングを少しズラすことで、王さんのタイミングを外す。これでだいぶ凡打の山を築きました。ノムさんに教えてもらったおかげですね。
※週刊ポスト2015年3月13日号