イスラム国の邦人人質殺害事件について、安倍首相は「罪を償わせる」と強い言葉でこれを非難した。しかし、落合信彦氏は「どうやって罪を償わせるのか?」と、安倍首相の発言に懐疑的だ。落合氏がその理由を解説する。
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自国民が海外で殺害された場合、国家はその国民が誰であれ、「遺体を返還せよ」と要求しなければならない。もちろん、戦争などの局面において遺体が返されないことはあるが、それでもそのことをはっきりと公に表明することが、国家としての最低限の責務である。
人質殺害後、安倍晋三が、あるいは政権の幹部らが、はっきりと遺体の引き渡しについて言明したことがあっただろうか。この国の政治家は、そんな最低限の責務すら放棄している。
安倍は中東に行く前に側近たちに止められていたという。しかし、彼らの反対を振り切ってエジプトで「カネを出す」と宣言した。それがISIL(Islamic State in Iraq and the Levant)に火をつけて人質殺害につながったのだ。
だが、その後の安倍からは人質を救出できなかったことへの自責の念や反省の色は全く感じられない。それどころか、高揚した様子で「(ISILに)罪を償わせる」などと断言し、自分の言葉に酔いしれている始末である。自ら人質を奪い返すこともできない国で、どうやって「罪を償わせる」ことなどできるのだろうか。
結局、安倍は口ばかりで、それはアメリカのオバマにも似ている。オバマも一見、ISILに対して威勢のいい言葉を並べているが、実際には軍事予算を増やしたと言っても、ISIL相手に35億ドル程度では、とうてい壊滅などできない。また、オバマは地上戦をやるかどうかなど、肝心なことははっきりしない。曖昧なままなのだ。
ISILという狂信者たちがイラクやシリアで暴れている第一の理由は、2011年、オバマがまだヨロヨロ歩きのイラクからアメリカ軍を撤退させたことだ。トップのオバマがこんな調子だから、米軍も事態は長引くと想定している。デンプシー統合参謀本部議長は、昨年11月の段階で、すでに「3~4年の長期戦になる」との見通しを示していた。
予算のないアメリカは、当然、日本に「同盟国としてカネを出せ」と要求してくる。結局、「罪を償わせる」と言いながら兵士を出せない日本は、アメリカの軍事予算を肩代わりさせられることになるかもしれない。それが今後、何年も続くことになるのだ。日本の経済は、大打撃を被るだろう。
※SAPIO2015年4月号