過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)におる邦人人質事件が発生して以来、安全保障制についての議論が騒がしい。現在の論点はどこにあるのか、現在の法制で現実に対応できるのか、東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
* * *
集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制の整備をめぐって、自民党と公明党の与党協議が続いている。
昨年7月の閣議決定はPKO活動に絡んで自衛隊が邦人を救出するケースも想定していたが、今回の事件にはまったく当てはまらない。
なぜかといえば、自衛隊活動が当該政府の「権力が維持されている範囲」に限られ、しかも「国家に準ずる組織」は存在しないことが前提になっているからだ。
ISを準国家とみるかどうかは措いても、彼らがシリアやイラク政府の権力が及ばない地域を事実上、支配しているのは明白である。だから閣議決定に基づく法律ができたとしても、今回のような事件で自衛隊が救出作戦を展開できるわけではない。
現実の緊張状態は半年前の想定も飛び越えてしまうほど厳しくなっている。
テロの脅威だけではない。中国は尖閣諸島に触手を伸ばし、北朝鮮も周辺国に威嚇を続けている。残念ながら、世界は平和と繁栄の時代から「テロと戦争の時代」にモードチェンジしてしまった。そんな激動にどう対応するか。これが問題の核心である。
見直し反対論者は自衛隊の「歯止めなき暴走」とか「際限なき拡大」などと批判している。だが、そもそも歯止めがなくなったのは日本ではなく、世界に脅威をまき散らしている側ではないか。
問題の根本に目をつぶり、念仏のように「戦争に巻き込まれたくない」と唱えているだけで平和は実現しない。頭を低くして厄災が通り過ぎるのを待つ。始末は他国に任せる。そんな「ひきこもり平和論」も通用しない。現実を直視し、どう平和を作っていくかが問われている。
※週刊ポスト2015年3月20日号