金融危機やナショナリズム等の問題で、火種が燻るEU(欧州連合)。加盟国間の経済格差が顕著になり、それに対する国民の不満を煽るポピュリズム(大衆迎合)の政治家・政党が多くの国で存在感を増している。EUの未来を大前研一氏が占う。
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EUが岐路に立っている。
巨額の債務問題を抱えるギリシャで反緊縮派の急進左派連合(SYRIZA)政権が誕生した。同政権のチプラス首相は「壊滅的な緊縮は終わった」と宣言し、単一通貨ユーロからの離脱をちらつかせながら、金融支援策をめぐってEUと駆け引きしている。
2月末が期限だったギリシャへの支援は、とりあえず4か月間延長されたが、ギリシャで大きくなったポピュリズムの炎は、この先EU全体に燃え広がる恐れがある。もしEUがギリシャの無責任なふるまいを許したら、火の手は2009年のギリシャ危機の時と同じように財政破綻候補のポルトガル、そしてスペインへと燃え移り、さらにイタリアに波及するだろう。
では、今後ギリシャとユーロはどうなるのか? シナリオは二つに一つしかない。一つは、チプラス首相が反緊縮路線を転換してユーロ圏にとどまるというシナリオだ。
実は、ギリシャはユーロ圏から離脱することになったら、EUも脱退しなければならない。ユーロとEUは一体だからである。EUから出たら、当然、EUが各国から集めて州単位で分配している地方交付金はもらえなくなる。これはギリシャの地方にとっては死活問題だ。
なぜなら、いまギリシャの地方は国家から回ってくるお金がほとんどないため、EUからの地方交付金で人件費をまかない、公共工事などを行なっているからだ。
つまり、EUを脱退したら地方は破綻してしまうのである。そのことがわかった途端にチプラス首相に対する国民の批判が高まり、緊縮財政に戻ってEUの救済資金供与の条件を受け入れるしかなくなるだろう。
もう一つは、チプラス首相が反緊縮路線を固持してユーロ圏から離脱するというシナリオだ。チプラス首相が緊縮財政の約束を守らずに無責任なふるまいを続けるようなら、EUはギリシャをユーロから追い出すべきである。
冒頭で述べた通り、もしEUがギリシャのわがままを許して債務を反故にしたり、安易に救済したりするような方向にいけば、ポピュリズムの炎がEU全体に燃え広がって規律の塊であるユーロの崩壊、EUの瓦解につながってしまう。だからEUは絶対にギリシャを許してはならないのだ。
※SAPIO2015年4月号