《安全と健康管理を第一に考えた、衛生的な環境をご提供します》──栃木県宇都宮市の認可外保育施設「託児所トイズ」のパンフレットは、こんな文言から始まる。
ページをめくると、あちこちに「嘱宅医と連携」「調理師手作りの離乳食」「ホテルのようなラグジュアリーさ」といった宣伝文句が躍り、1泊2万円という保育料に見合うだけの、至れりつくせりの環境がアピールされている。しかし、それらは全て嘘だった。
昨年7月26日、同施設に預けられた山口愛美利(えみり)ちゃん(生後9か月)が亡くなった。愛美利ちゃんの母親・A子さん(37才)が、そこで起きたおぞましい出来事について、涙ながらに語ってくれた。
「私たち夫婦は共働きでお互い出張も多く、昨年7月23日からの3日間は、どうしても施設に預けるしかなくて…。トイズは、事前に見学した時に、代表の女性が、“ウチはそこらへんの安い託児所とは違います”とかいいことばかり言うので、すっかり信じてしまったんです。今思えば、あの時の判断が全ての間違いでした…」
本来なら愛美利ちゃんと再会するはずだった7月26日の早朝6時半、A子さんの携帯が鳴った。この電話で家族の人生は一変することになる。
「トイズから、“娘さんが息をしていない”って…。何が起きたのかもわからず、夫と施設に駆けつけました。そうしたら、もう娘の体は冷たくなっていて…」(A子さん)
数か月後に、死因は熱中症だとわかるのだが、預けてからたった3日間で、8.7kgあった体重は、7.4kgにまで減っていた。
絶望のあまり、愛娘の亡骸を目の前にしても、A子さんも夫のBさん(49才)も、現実を受け入れることができなかったという。そして、トイズの不審な説明を聞いて、夫婦の絶望はより一層深まることになった。
「愛美利が息をしてないことを確認したのは朝5時25分で、救急車を呼んだのは5時52分でした。なぜ30分も救急車を呼ばなかったのでしょうか…」(Bさん)
しかも、愛美利ちゃんの異変は、預けてすぐに起きていた。施設側の育児日誌によれば、初日から下痢をして、2日目には38℃の熱が出ていたという。
「今となっては、その記述内容も本当にちゃんと書いていたのか疑問ですが、いずれにせよトイズは病院にも連れて行かず、私たちに連絡すらしていなかった。専属の看護師の存在や、嘱宅医との連携なんて、全部嘘だったんです。30人近くの乳幼児を、代表の女性とその親族の2人だけで見ていたこともわかりました」(Bさん)
加えて、トイズの代表女性は、愛美利ちゃんの遺体を前にしても、謝罪の一言もなかったという。
昨年9月、A子さん夫妻はトイズの代表者や職員を保護責任者遺棄致死や業務上過失致死の疑いで刑事告訴。情報を集めるためにトイズの利用者に会って話を聞いて回り、ブログを立ち上げて情報提供を呼びかけた。すると、翌10月、信じられない事実が飛び込んできた。
「トイズの元スタッフだというかたから、“あの施設はもう何年もの間、幼児虐待をしています”という情報提供のメールが来たんです。そして、証拠となる写真が添付されてありました」(Bさん)
その写真には、目を疑う光景が広がっていた。まるで動物園の檻のような柵で囲われた一角に、毛布やひもで手足を縛られ、“イモ虫”のようにうつぶせで転がされたまま放置されている乳幼児たち…。
「実際、動物園以下の環境だったことがわかったんです。“調理師の作った離乳食”なんて大嘘で、弁当屋さんからもらってきた賞味期限切れのパンや麺類を、餌のように盛りつけただけでした。それも最低限の量です。食べさせたら排泄するからって、ほとんど食事も飲み物も与えていなかったんです。お腹がすいて子供たちが泣き始めると、スタッフがひもや毛布で縛って、放置していたんだそうです…。電気代がもったいないからと、冷暖房もつけていなかったといいます。冬場は、親が迎えにくる直前に子供の手だけ温めて、バレないようにしていたみたいなんです」(A子さん)
他にも、トイズに預けたことのある保護者たちから、
「1階の受付で子供を預けた後は、決して中の様子を見せてくれなかった」
「帰ってきた時に爪がはがされていた」
といった、情報が複数入ってきたことで、A子さん夫妻は、さらに詐欺容疑などでも刑事告訴したのだった。
「これは、人の心を持たない卑劣な詐欺師が、言葉の話せない赤ちゃんを食い物にした、悪質な事件です。愛美利の無念を晴らせるのは私たちだけですから、最後まで闘い抜く覚悟です」(Bさん)
この間、トイズ側は「適切な保育を行っていた」という声明を出したのみで、昨年12月に営業を停止したままだ。
※女性セブン2015年3月26日号