日本プロ野球の草創期に中日のエースとして活躍した杉下茂氏は、巨人V9を率いた川上哲治氏と選手として、そして指揮官として対戦した。御年89歳になる、日本球界初のフォークボーラーとして知られ、「フォークの神様」と称される杉下氏が、その「フォークボール」について語った。
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「本当はフォークを投げるのは好きじゃなかったんだけどね。僕の目指していたのは川上(哲治)さんをど真ん中のストレート3本で打ち取れる投手。みんな弾き返されたけど(笑い)、これでもか、これでもかと向かったものです。優勝した1954年は監督命令だから仕方なくフォークを投げていただけでした。
フォークといっても僕のは揺れながら三方向に落ちた。球質はナックルなんです。捕手が随分ケガをしましたね。バットに当てられたのは1954年に、真田の重やん(真田重蔵。松竹、大阪などで活躍した)に1回くらいかな。
今の選手たちが投げているのはフォークじゃなくて、SFF(スプリット・フィンガード・ファストボール=※注)ですよ。本当のフォークを投げられたのは、僕の知る限りでは村田兆治、野茂英雄、佐々木主浩くらいです」
【※注】人さし指と中指でフォークボールよりも浅く挟んで投げる変化球。フォークよりも落差が小さく、スピードが速い。田中将大(ヤンキース)らが得意としている。
※週刊ポスト2015年3月20日号