本態性振戦(ほんたいせいしんせん)は、40代以上の約20人に1人、国内に約400万人の患者がいると推計されている。字を書こうとすると震えて書けない、コップ等が持てない、声が震えて思うようにしゃべることができないといった症状が出る。震えは小脳や視床、脳幹などにある特定のエリアで、神経伝達に異常が起こることで不随意運動が起こると考えられているが、原因は不明だ。
今までは薬物治療が中心で、重症では開頭して心臓ペースメーカーに似た植え込み装置を脳深部に留置し、電気刺激を行なう脳深部刺激療法(DBS)や電極を挿入し、約70℃で焼灼する方法で震えを軽減させていた。
新百合ヶ丘総合病院の堀智勝名誉院長に聞いた。
「開頭手術は、出血などのリスクがありました。そのため、より患者に低侵襲の治療法を受けてもらおうと、MRIを見ながら、ピンポイントで超音波(磁力線=ビーム)を照射する磁気集束超音波装置が開発されました。虫メガネで、太陽の光を1点に集中させて温度を高めるのと同じ原理で、超音波のエネルギーを脳の1点に集束させ、温度を上げて治療します」
脳には、血液脳関門といって、薬などが脳に直接入らないようにブロックしている場所がある。認知症の薬の中には、血液脳関門によって、薬が脳に入らないために効果が出ないというものもある。
そこで、このMRIと連動した磁気集束超音波装置を使い、低い温度のビームを血液脳関門に当てて、一時的にブロックを解除し、薬を脳に入れるということも考えられている。頭蓋骨を切らずに治す治療として、期待されている。
(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2015年3月20日号