最新研究では総コレステロール250mg/dlまで健康体とされる研究結果が出ており、「コレステロールはとにかく低くしろ」といった論調に揺らぎが出ている。そして、当たり前のように使っている「悪玉」「善玉」の区分けも翻されるべきだという。悪玉とされるLDLコレステロール値が高いほうが死亡率が低いという調査結果も出ている。
「悪玉」「善玉」の区分けを含めたコレステロールの“常識”が過去のものとなりつつある。にもかかわらず、日本の医師が相変わらず患者に「悪玉を減らしましょう」と言い続けるのはなぜか。臨床医の実情に詳しい医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はこう語る。
「日本の医師は各大学の医局制度の下で育てられ、専門を極めるのが通常のキャリアです。すると、たとえば外科出身の医師が総合クリニックを開業すると、畑違いのためコレステロールの最新研究の情報は入りません。
一方、専門学会から診断のためのガイドラインが出れば、製薬会社の営業担当がそれを持って配布しにくるから、学会基準値は把握できる。そうした医師は学会のガイドラインを守ってコレステロール低下薬を処方しておけばいい、と考えるわけです」
医師にすれば専門でもない分野でわざわざ独自の判断をしてリスクを取る必要はないというわけだ。総合医が最新の知見を得ないまま、動脈硬化学会という権威が定めた基準を安易に取り入れている現状がある。
その結果、世界の趨勢とはかけ離れたコレステロール低下医療が通用し続ける。経済的な要請もある。東海大学名誉教授の大櫛洋一氏(大櫛医学情報研究所長)が語る。
「たとえば、LDLの診断基準値が現在の120mg/dlから人間ドック学会『新判定基準』の上限(*注)まで緩和されると、“異常”と診断されるケースは成人の55%から5%に激減し、“病人”は3565万人から324万人へと、実に10分の1以下になります」
【*注】30歳以上の男性は178mg/dl、女性は30~44歳が152mg/dl、45~64歳が183mg/dl、65~80歳が190mg/dl。
そうした事態を病院や製薬企業は歓迎しない。基準が厳しいからこそ患者が増え、売り上げが伸びて業界が潤うからだ。
もちろん、医療を受ける患者にとって重要なのは業界の都合ではない。国民は「医者」や「薬」への妄信をやめ、「厳しい基準値」が自らの健康を脅かすリスクを持つことに気づかなければならない。
※週刊ポスト2015年3月20日号