【書評】『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る 人類最大の権力闘争』峯村健司著/小学館/1512円
【評者】青木理(ジャーナリスト)
私が知る限り、新聞記者には次のようなタイプがいる。1.地べたをはいずり回る現場タイプ、2.情報の分析や論評に長けた学者タイプ、3.流麗な文章を紡ぐコラムニストタイプ、4.その他大勢。朝日新聞の記者である著者は明らかに1である。
本書も現場取材でつかんだ事実が次々提示される。決して美文ではないが、事実の力に押され、あっという間に読み切ってしまう。中国権力層の生々しい情報がこれほど詰め込まれた本は珍しい。新聞記者はまず情報を伝える仕事なのだから、著者の姿勢は敬服に値する。
そしてつくづく思う。異形の大国として世界秩序を左右しつつある中国は、いったいこれからどこに向かうのだろうか、と。
共産党独裁を堅持する中国は、急速な経済発展を遂げる一方、持つ者と持たざる者の格差は途方もなく広がっている。本書によれば、持つ者の代表格は「裸官」。賄賂などで肥える党や政府、国有企業の幹部であり、巨額資金を蓄え、愛人を囲い、それは国外に隠される。子女は留学し、時に放蕩する。向かう先はいずれも米国。今後の世界を担う二大国は、一見対立しつつ、表でも裏でも隠微に絡み合っている。
しかも中国の権力者は、死ぬか生きるかの闘争を演じ、その果てに現在の習近平体制は屹立している。今後の中国がどこに向かうにせよ、本書を読めば、異形の大国と国際政治の複雑怪奇さが浮かび上がる。
ひるがえって現下日本。虚弱な為政者が勇ましい言辞を吐き、巷には安易な「反中」だけが蔓延する。そうした現状の浅はかさも、本書は浮き彫りにしているように思う。
※女性セブン2015年3月26日号