【著者に訊け】城戸久枝氏/『祖国の選択』/新潮社/1512円
『祖国の選択』
中国残留孤児だった自分の父親(城戸幹さん)の足跡を追った『あの戦争から遠く離れて』(2007年刊行)から7年。大宅賞作家の城戸久枝さんの新作は、日本に帰国するか中国に残留するか…あの戦争によって大きな選択を迫られ、そして日本に帰国した人々がたどった人生を紡ぐ物語。「もし私だったら? 想像もできません。でも、無関心でいるよりは、伝えようとすることが大事なんだと私は思っています」そう城戸氏は語る。
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「『あの戦争から遠く離れて』を通じて縁がつながった人に会いに行き、話を聞いていくなかでそれぞれの話をつなぐ1つのテーマが見えてきて、この本を書くことができました」(城戸久枝さん、以下同)
『あの戦争~』は、1970年、まだ「中国残留孤児」という言葉がなかったときに自力で中国からの帰国をはたした城戸さんの父、幹さんの数奇な人生をたどる本だった。
『祖国の選択』では、戦争のために外地で命にかかわる厳しい選択を迫られた6人の話を聞く。中国で7回も売られた経験を持つ残留孤児の小林栄一さん。目の前で家族を殺された富満ていこさん。八路軍に留用された従軍看護婦の古藤やすこさんと、幹さんが日本人とはぐれた列車に乗り合わせた松永好米さんは、『あの戦争~』を読み自分から連絡してきてくれた。探してもたどりつけない人に、本が縁を結びつけた。
「むごい体験を話されることもある。戦争を知らない自分にはわからないと言われるかもしれない。ためらう気持ちはありましたが、わからなくても今聞いたほうがいい、知りたいと思って、彼女たちの話を聞かせてもらうことにしました」
戦後70年。話を聞いた人はいずれも高齢で、最年長の松永さんは今年101才になる。
「相手との関係をつくることから始めるので私の取材には時間がかかります。取材はせずに、手料理をいただいて雑談だけして帰ったこともあって。要領が悪いんです」
『あの戦争~』から7年の間に、城戸さんは妊娠・出産した。本のエピローグを書いているとき長男は3才9か月で、幹さんが満洲でひとり取り残されたときと同じ年齢だった。
「取材はほぼ終わっていたのに出産で執筆が中断してしまった。ずっとあせりの中にいましたが、今思うと、子供の成長に合わせていろんな人の話が実感をともなっていったところもあります。首も座らない2か月の赤ちゃんをあの混乱のなか日本に連れて帰ることがどれほどすごいか。まだひとりでは歩けない子供と離れなくてはならなかった祖母のことを思うと耐えがたい気がします」
そうした自身の変化も、本には濃密に反映されている。幹さんを育てた、中国人の養母への思いもより深くなった。一昨年、息子を連れて中国に行き、養母の墓にも参った。
「息子には中国にもじいじのおかあさんがいるんだよ、って話しています。私たち家族の歴史を息子に伝えるにはまず、中国のことを自然に受け入れてほしいから、中国語の子供の歌を家で流したりもします。私の中国語はなまっているので(笑い)、いずれは習わせたいですね」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2015年3月26日号