イスラム国に拘束された日本人2人が殺害されたことに対し、安倍首相は「イスラム国に罪を償わせる」と、強い口調で怒りの言葉を述べた。しかし国際ジャーナリストの落合信彦氏は、この発言を疑問視する。落合氏はこう語る。
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重要なことは、本来中東において力を持っているはずのプレイヤーたちが、今回は沈黙を保っていることである。一つはトルコだ。
トルコはイスラエルを除けば中東で最強の国である。米軍がいて、カネもあるため、最新型戦闘機のF35など強力な武器を持つ。さらに、情報機関のMIT(トルコ国家情報機構)の能力もきわめて高いため、国内のテロも未然に防ぎ、危険人物と目されればアメリカ以上に即断で刑務所に収容してしまう。そんな頼れる国が、今回に関しては沈黙を貫いている。
その理由の一つが、クルド人の存在だ。トルコ・シリア・イラクの3国にまたがり2000万人以上いる「世界最大の国のない民」クルド人は今ISILと戦っている。トルコとしてはISILと戦うとクルド人を利することになるため沈黙しているのだと言われている。だが、実際にはむしろ現大統領のエルドアンが、ISILとの戦争に参加することを危険だと考えているからだろう。
同時にイスラエルも、いまだ沈黙を貫いている。ただ、こちらには気がかりなことがある。アラブ系に扮してISILに潜入していたモサドのエージェントが、殺害されたとの情報があるのだ。水面下ではさまざまな動きがあっても、イスラエルの動きは表面化してこない。
トルコとイスラエルという二大強国が沈黙していることは、ISILが過去のイスラム系テロ組織に比べても強大な力を持っているということの表れでもある。そんな戦いに首をつっこもうとしているのだから、安倍の不見識は日本及び日本国民全員を危機にさらしているということだ。
※SAPIO2015年4月号