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【書評】 間違った理解がはびこっている「カイゼン」の本質

【書評】『トヨタ生産方式の逆襲』鈴村尚久著/文春新書/750円+税

【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

「メイド・イン・ジャパン」の経営メソッドとして、名立たる企業のお手本となってきたトヨタ生産方式。その「カイゼン活動」によって、効率的で経済的、かつ高品質な商品を生み出す仕組みは、もはや製造業だけでなく、サービス業や生協の経営まで、あらゆる事業分野に取り入れられている。

 しかし「高いコンサルタント料を払って」導入したものの、「カイゼン」の本質を理解しないばかりに、「利益なき繁忙」に陥り、「キャッシュフローも減って財務面も悪化」させる企業が、意外に多いのだという。

 安い人件費を求めて海外に生産拠点を移した結果、「納期が長くなり、コストも高くなる」。そればかりか管理が複雑になった分、「賃金が高い親会社の経理部や購買部のホワイトカラーが増える」といった具合に。

 もともとは著者の父親が、トヨタの生産技術者として「確立に尽力した」方式で、著者自身もトヨタ時代、部品メーカーなどの生産体制を改善していた。コンサルタントに転じてからは、コンドームメーカー、建材メーカーなど数多くの企業で「トヨタ生産方式」を指導してきた。

 まさに親子二代にわたり、「組織の課題と正面から向き合」い、「間違った『常識』」や「抵抗勢力」と格闘しながら、生産性の向上に貢献してきたのである。

 とりわけ無意識に染みつく「思い込み」の改善は効果的で、北海道の「コープさっぽろ」の場合、「物流費が高くなると抵抗を受け」たものの、一日1回の各店舗への配送を、一日2回とした。「配送回数が2回になれば鮮度のよい商品が店頭に並び、顧客の評価が高まる」。コスト増を上回る収益を手にできたという。

 顧客ニーズに臨機応変に対応することこそが「トヨタ生産方式」の神髄だが、「あまりにも間違った理解」が世にはびこっている。それを見過ごせないからこそ、“求道者”たる著者は「逆襲」する。そして成功への秘密を惜しげもなく明かすのである。

※週刊ポスト2015年3月27日号

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