テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有が肘を故障し、17日にトミー・ジョン手術(※注)を受けた。
【※注/米国人外科医、フランク・ジョーブ氏によって考案された肘の靭帯再建手術。損傷した靱帯を切除し、別の部位から正常な腱の一部を摘出して移植する。1974年に初めて手術を受けたトミー・ジョン投手にちなんでそう呼ばれる】
なぜ肘の故障にいたったのか、昨今日米で唱えられている「ウェイトトレ偏重」説は、検証する価値があるだろう。
日米の名選手たちは、最近の選手は少しランニングを軽視しすぎではないか、と警鐘を鳴らす。“七色の変化球”で活躍した大野豊氏が語る。
「もちろん走るだけがベストだという気も、ウェイトトレーニングが悪だという気もない。ただ経験上、器具がなくて走るしかできなかった頃には、こんな深刻なケガをする選手はぐっと少なかった」
1983年にトミー・ジョン手術を受けた村田兆治氏が続ける。
「若いうちから上腕二頭筋や背筋を鍛えすぎると、手首や肘を傷めることが多い。大事なのは上体と下半身のバランスを取ることだが、それを作るのがランニングなんですよね」
MLBでも同意見は少なくない。今年2月、ロイヤルズからパドレスに4年間7300万ドルでFA移籍したJ・シールズは、「オレのルーティンの最優先事項は走ることだ」と公言。J SPORTSのMLB中継解説者としても知られるスポーツジャーナリストの出村義和氏は、かつてロジャー・クレメンスを取材したときのことを語る。
「彼は投手の生命線はここにあるといって、太股のあたりを叩いていいました。肩や肘は多少傷めても投げられるが、足を傷めたら投手はできない。自分は若い頃、打たれた試合の後はチームバスには乗らず、ホテルまで何度もランニングして帰ったことがある、と。
また、伝説の大投手サンディ・コーファックスも、最近の投手の肘問題についてこういっていたと聞きました。“最近の投手はメカニックに問題を抱えている。特に下半身の使い方だ。下半身を活かし切っていないので肘や肩に余計なストレス(負担)がかかっている。殿堂入りの名投手、トム・シーバーのようなドロップ&ドライブ投法(しっかり沈み込んで投げる方法)を手本にすれば、肘を傷める投手が減るのではないか”」
記者職45年の大ベテラン、MLBドットコムのコラムニスト、ライル・スペンサー氏もこう証言する。
「私は長年、ノーラン・ライアンを取材してきたが、彼も投手は下半身が一番大切だと語って常に鍛えていた。通算300勝を達成した後も会見が終わるとクラブハウスに行って、自転車漕ぎを欠かさなかった」
※週刊ポスト2015年3月27日号