オリックスではイチローらとともにリーグ連覇を達成し、米メジャーリーグでは、2度のワールドシリーズ制覇を経験した田口壮。出身高校は野球では無名の進学校、兵庫県立西宮北高で、甲子園とは無縁だった田口は、野球漫画ではちばあきおの名作『キャプテン』の愛読者だったそうだが、現在は『MAJOR』(満田拓也・作)を愛読しているそうだ。
「息子が買ってきた単行本が家に転がっていてたまたま読んだんですが、スタジアムの描写が本当にリアルで実に雰囲気をつかんでいる。自分がもがいていた頃をつい思い出してしまうほど。“作者はメジャーリーガーだったんじゃないか”と思ってしまうくらいです(笑い)」
田口氏が過酷なマイナー生活を経験していることもこの作品にシンパシーを感じる理由だ。
「主人公の茂野吾郎は鳴り物入りでメジャーに迎えられるわけではなく、マイナーリーグから挑戦して徐々に上を目指していく。そこに共感しました。微妙な評価でメジャーに昇格したり、またマイナーに落とされたりという僕も経験した現実が怖いほど精密に描かれています。
印象的なのは、マイナーリーグで吾郎がデッドボールを当ててしまったバッターに謝りにいくシーン。そのバッターは〝気にするな。球を怖がっていたら打者は務まらない”という内容のセリフをいうんです。
メジャーの変化球は凄くてスピードも角度も日本とは全然違う。スライダーなんて本当に体をえぐるように入ってくる。でも、そんなボールに当たる覚悟で食らいついていかないと、メジャーへはのし上がれない。このセリフは、まさにメジャーリーガーの気迫を代弁しています」
田口氏に「野球マンガ史上、最強の魔球は何か」と訊くと、星飛雄馬(『巨人の星』梶原一騎・原作/川崎のぼる・画)の大リーグボール、番場蛮(『侍ジャイアンツ』梶原一騎・原作/井上コオ・画)の大回転魔球……。数多くの名前が挙がったが、最後に思い直してこういった。
「やっぱり自分が実体験した魔球にはかないません。野茂英雄さんのフォークです。あの落ち方はすさまじくて、本当に目の前から“消えた”んです」
※週刊ポスト2015年3月27日号