【漫画紹介】『猫の手はかりない!』紺野キタ著/幻冬舎/680円
口元に刻まれたしわ、めがね、白い髪にハゲ頭。老紳士たちが並ぶ表紙が印象的な紺野キタ『猫の手はかりない!』。紳士たちの表情は穏やかで、見つめているとなんだか肩の力が抜けていきます。
実は本作は、最近流行りのシェアハウスを扱ったマンガです。それも高齢男性ばかりの共同生活というのだから少し変わっています。主人公は女装が趣味の男の子「しのちゃん」。
将来を心配する父親とぶつかってばかりいるしのちゃんは、家を出て親類の徳おじさんが運営するシェアハウスに住み込みで働くことに。住人は還暦や古希が近い徳おじさんの古い友人たち。まるで男子校のような生活を、元気いっぱいのしのちゃんが盛り上げていきます。
おじいさんたちが家族と一緒に暮らさない理由はさまざま。ずっと結婚をしなかった人もいれば、妻を亡くした後、子供とはあえて別々に暮らすことを選んだ人もいます。それぞれが抱える事情をさりげなく描写する紺野キタの抑えた筆致がとても見事です。
紺野キタは、1990年代に女子校の寮生活を描いた『ひみつの階段』という名作を描いています。真夜中のお茶会や古い寄宿舎などに憧れがいっぱいつまったキラキラした作品ですが、身に覚えのある不安や悩みも優しく描き込まれていて時々むしょうに読み返したくなります。
キャラクターの年齢や性別は異なりますが、『猫の手はかりない!』もその点は一緒。寂しさや怒りといったネガティブな感情さえも包み込んでくれる共同生活のぬくもりがマンガを読んでいる間中漂っていて、やはり憧れてしまうのでした。
(文/横井周子)
※女性セブン2015年4月2日号