チュニジアで日本人3人を含む19人の観光客がテロリストに虐殺されたと大きく報じられた3月19日朝、外務省幹部は本誌記者にまず何をいったか。
「あそこは以前から『渡航には十分注意してください』とホームページでも喚起していたところですからね」
つまり“俺たちのせいじゃないから”というわけである。そういう態度だから国民の信頼を失い、非難を浴びてしまうということがどうしてもわからないのが役人の限界なのだろう。
ならば政治家はどうか。彼らもまた、事実確認や家族・国民への哀悼もそこそこに、「今回のテロは日本人を狙ったものではない」(自民党幹部)、「日本の中東支援とは関係ない」(某省副大臣)などと責任逃れに必死だった。
安倍晋三・首相は、「テロは断じて許されない。強く非難する」とコメントしたが、役人の作った答弁書のような決まり文句ばかりで、国のリーダーのメッセージとしては力なく弱々しい。
事件は日本時間の18日19時頃に起きた。19日未明には、外務省にまず「日本人1人死亡」の情報が入ったが、その時点では政府はほとんど動かなかった。それが早朝になって「5人死亡」という新情報がもたらされ、慌てて官邸に「情報連絡室」が設置されたのである。菅義偉・官房長官が後に会見で「5人死亡の情報は間違い」と憎々しげに語った裏に、そういうドタバタ劇があった。
今回のテロが日本人を標的にしたものでないことは推察できるが、外国人を狙ったことも明白だ。
チュニジアは「アラブの春の優等生」と欧米や日本で歓迎されてきたが、実際には「イスラム国」に最多の兵士を供給し、今年1月にはイスラム国がチュニジア人ジャーナリスト2人を惨殺する事件が起きた。外務省が渡航に注意を喚起していたとしても、対応が十分であったとはいえない。
イスラム国は後藤健二氏、湯川遥菜氏を殺害した後、「日本人は世界のどこにいても標的になる」と脅しをかけていた。安倍首相はそれを受けて立ったのだから、邦人保護に責任があったはずだ。“危険だとホームページに書いておいたぞ”と突き放し、お得意の「自己責任」を持ち出すなら、もはや「政治責任」も「行政責任」もあったものではない。
※週刊ポスト2015年4月3日号