【書評】『老人たちの裏社会』新郷由起著/宝島社/本体1300円+税
新郷由起(しんごう・ゆき):1967年北海道生まれ。OLなどを経て1993年から文筆業。おもに親子関係、家族をテーマに取材、執筆を続けている。著書に『まんがで丸わかり! はじめてのお葬式』(イースト・プレス刊)など。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
〈半グレ化する不良老人が急増している〉と著者は書く。
かつて青少年の代表的犯罪だった万引きの検挙者数は、今や65歳以上の高齢者が未成年者を大きく上回っている。性犯罪での認知・検挙件数も急伸し、なかでもストーカーにおいては60代以上による認知件数はここ10年で4倍に増え、他の世代の増加率に比べてかなり高い。そして、「キレる老人」という言葉の定着が象徴するように、この20年で高齢者の暴行による検挙数は実に45倍以上にも増えている……。
高齢者とその関係者を取材し、高齢者の荒れた姿を浮かび上がらせ、原因を探ったのが本書だ。
たとえば、著者は高齢者の万引きが発覚する現場に何度も立ち会ったが、捕捉された高齢者は、まずは謝りながら号泣したり、哀れな老人を装って許しを請うたり、自身の不幸な境遇を訴えたり、ボケたフリをしたりする。なおも追及されると、「覚えていない」などと言ってとぼけ、中には「認知症だから仕方がない」と開き直るケースもある。
高齢者の万引き犯には常習者が多く、世間が思っている以上にしたたかなのだ。だが、犯罪に走る背景を探っていくと、「生きる意味も生き甲斐も失った」と漏らし、心の空白を窺わせる高齢者が多いという。
〈持て余す時間とエネルギーをどう使ってよいか分からず〉〈迷走を続ける、不器用な高齢者〉。取材を通じて見えてきたのはそんな姿であり、〈死ぬよりも、上手に老いることの方が難しい時代になってしまった〉と著者は書く。確かにその通りである。そして、ここに描かれている姿は誰にとっても「明日の我が身」かもしれない。そう思うと、問題はより切実だ。
※SAPIO2015年4月号