知る人ぞ知る専門誌・業界誌の世界──。今回紹介するのは、古銭・コインの専門誌『収集』です。
【『収集』】
創刊:1977年
月刊誌:毎月20日発行
部数:2000部
読者層:50代以上の男性が中心。
定価:648円
購入方法:コインショップか、発売元・書信館出版に直接注文。
「大判、小判など歴史性を感じるコインを集める人もいるし、ヨーロッパの美しい肖像硬貨に魅せられる人もいる。馬を彫ったコインを愛でる人もいて楽しみ方は人それぞれです」
そう語るのは『収集』の後藤雅和編集長(33才)だ。
「コインオークションの本場は、アメリカとイギリスとドイツ。アメリカでは、世界に数個の“試鋳貨”に何億円という値をつけたりします」
“試鋳貨”とは、貨幣を製造する際のデザインの見本品のようなもので、もともと数も少なく、注目度も段違いに高い。その希少性から値上がりを見込んで“投資”の対象になりやすいのだという。
「投資といえば、最近は、中国に勢いがありますね。かつてバブル期に日本人が買い漁ったものを、すごい勢いで中国人が買い戻しています」
コイン市場の動きは、そのまま世界経済の趨勢と直結しているという。
さて日本のコインはというと、人気を得たきっかけは1964年の東京オリンピック。日本初の記念硬貨(1000円銀貨と100円銀貨)が発行され、「メディアが大々的に採り上げて一気に熱が高まったようです」(後藤さん)。
1973年には1000円銀貨に2万円以上の値がつくまで高騰した。その後、徐々に値崩れしたが、1980年頃までは1万円前後を維持していた。それが現在は、「コインショップで売ったら1300円前後でしょうね」と後藤さん。
「1970年の万国博覧会記念、1972年の札幌オリンピック記念、1975年の沖縄国際海洋博覧会記念ほか、オリンピックや博覧会など、記念硬貨はことあるごとに出ているんですよ」
その結果、希少価値が薄れ、次第に記念硬貨離れが進んだ。「今、『47都道府県記念硬貨』が発行されているんですけど、知らないですよね?」と後藤さんは笑う。
しかしその一方で、一般性が薄れたぶん、マニアたちは過熱した。同誌への寄稿文から、収集マニアが競り合うオークション会場の手に汗握る熱気が伝わってくる。
〈まず登場したのは…有名な1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨プルーフで、参考価格500万円に対し落札価は1900万円。これはレコードプライスである。…一昔前なら15枚揃いのセットを買ってもお釣りがきた落札価である〉
ウナライオンはイギリスのヴィクトリア女王の肖像金貨の名品で、1839年に400枚だけ発行された。同じオークションに ウナライオンの“試鋳”5ポンド銀貨も出品されていて、それを見送った筆者の心の動きが興味深い。
〈競り上がり落札価は2900万円になってしまった。…4、5年以前までは500万円前後の相場であった。私も…過去に3回も入手の機会があったのだが、諸般の事情で逃してしまった。逃げられた恋人の面影をいつまでも抱いて悶々とする情けない男のようだが、今回の落札結果を見て却ってすっきりした思いである〉
とはいうものの、やっぱり悔しい。
〈数年前と比べるとオークションの参加者も倍くらいになっており、それに比例して落札価もうなぎ上りである。いったい日本はどこが不況なのか? アベノミクスなどくそくらえである。デフレ解消よりもハイパーインフレの方を心配してもらいたいものだ〉
ちなみに、こうしたオークションは、大小合わせて年10回、各回300人ほど集めて開催され、1日に約5億円が動くこともあるという。
聞けば聞くほど縁遠い世界のようだが、後藤さんは「そうでもないですよ」と言う。
「注目すべきは50円硬貨。昭和62年は発行枚数が少なくて、並品でも4000円、美品なら6000円ほど。2010(平成22)年以降も電子マネーの影響で、発行枚数が制限されていますから、並品でも2000円の値をつけています」
硬貨は並品でも価値があるが、紙幣はたとえ希少な番号のものでも、折れ目やしわがあると二束三文になってしまう可能性があるという。
これからお札の扱い方と、硬貨を見る目が変わりそう?
古参コレクターは入手したお宝コインを手元に置くが、最近は、写真に写し、現物は銀行の貸金庫で保管する人がほとんどだという。
(取材・文/野原広子)
※女性セブン2015年4月2日号