東京都杉並区の閑静な住宅街に、早朝から怒声が響いた。「コノヤロウ! コノヤロウ!」──。3月26日、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬(ホ・ジョンマン)・議長(84)の自宅に強制捜査が入った。北朝鮮産のマツタケを中国産と偽って輸入したとして逮捕された貿易会社社長らの関係先としての捜索だった。
誰の目にも“別件捜査”は明らかだ。北朝鮮によるマツタケやカニの密輸はなかば堂々と続けられてきたものだし、その関係先として総連議長が挙がるのも不自然な話である。もちろん、拉致問題で暗礁に乗り上げる日朝外交と関連ある当局の圧力と見るのが妥当だろう。許氏は集まった報道陣に、自宅前でこうまくしたてた。
「日本当局は日朝関係を悪化させ、拉致被害者の円満な調査を阻害したいのか。不当な捜査だ。その証拠に2時間捜索して押収物はゼロ。彼らは私の携帯電話の写真を撮っていっただけだった」(写真のシーン)
拉致問題調査を「やる、やる」といっておきながらゼロ回答を続ける犯罪国家の代弁者にここまでいわれる筋合いはないが、日本側にも負い目はある。本誌が繰り返し報じてきた通り、安倍政権は拉致で得点稼ぎしたいばかりに北朝鮮に譲歩を繰り返し、せっかく差し押さえて取り上げた総連ビルも事実上、無傷で返してしまった。今になって“強硬姿勢”を装うのは白々しく、逆に手詰まりになっていることを物語っている。
※週刊ポスト2015年4月10日号