世界中から集められた30万点を超える多様なコレクション。常時展示数は約2万6000点。すべての作品を見ようと思ったら一週間はかかるといわれる世界最大級の美術館、ルーヴルから、厳選された83点の風俗画が、東京・六本木の国立新美術館にやって来た。作曲家・千住明さんが、館内をぐるり。見どころを解説する。
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16世紀イタリア・ヴェネツィア派を主導した、ティツィアーノの『鏡の前の女』。光の画家と呼ばれるレンブラントが描いた『聖家族』、または『指物師の家族』…それぞれの時代を映した絵は、アーティストたちの生き様を感じさせてくれます。中でも、17世紀オランダを代表するフェルメールの傑作『天文学者』は、ほとんどルーヴルを離れることのない作品のひとつで、強烈なオーラを放っていました。
でも、しかし。この『ルーヴル美術館展 日常を描く──風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄』を本当に愉しもうと思ったら、絵の前に立つだけではまだ半分。後の半分は会場に足を運ぶ前に、そもそも風俗画とはなんぞやというところが大切になってきます。
風俗画とは、人々の日常生活の情景を描いた絵画。現実の写実も描かれていますが、それを上回るほど画家個人の私的なポエムが含まれているので、今でいうところの劇画、漫画に近いところにあるといってもいいでしょう。つまり、その画家の私的なポエムを読み解くことで、画面に描かれているものとは異なる意味を見い出し、作品が持つ「もうひとつの世界」を愉しむことができるようになるのです。
そのために必要なのは、描かれている小道具の意味を知ることです。ヨーロッパ絵画では伝統的に、シンボルとして何かを描くことが多用されています。
例えば、犬なら「貞節」や「忠誠」。猫は「悪しき者」。鏡は「懸命」と「真実」。白百合は「純潔」の象徴として。ワインと3本の花が出てきたらそれはキリスト教的であり、割れた水瓶は「純潔の喪失」を意味しています。柔らかで温かな光で聖母マリアを表し、描かれている書物が、旧約聖書であることに気づくと、どこにでもいる一家が、いきなり「聖家族」へと変身します。
絵の前に立ったら、小道具の持つ意味を考えながら、ほかにも何か隠されているものはないか、隅々までじっくりと見てください。見えてきたものをつなぎ合わせると、目の前の絵とはまた違うストーリーが浮かび上がってくるはずです。
※女性セブン2015年4月9・16日号