「安倍総理は40代で小泉政権の幹事長を務めるなど売り出し中だった当時にNHK番組改変問題(*注)で叩かれたトラウマがある。
第1次内閣も閣僚の不祥事が続いた後、最後は『閣議で他の閣僚が総理に挨拶もしない』と学級崩壊現象が報じられてメディアにつぶされたという意識が強い。そのため、総理に返り咲くと新聞・テレビ各社のトップと相次いで会食してメディアとの関係強化をはかってきた」(側近議員)
【*注/NHKが2001年に放送したETV「問われる戦時性暴力」の番組内容に、自民党の安倍氏と中川昭一氏から政治圧力がかかり、番組改変が行われたのではないかと問われた問題。朝日新聞が報じたが、安倍・中川両氏ともに否定し、朝日も後に取材が不十分だったとの検証結果を発表した】
首相動静でも、首相が就任後、民放キー局や大手紙の社長、あるいは編集幹部と頻繁に会食していることは報じられている。それが昨年秋以来、閣僚の政治資金スキャンダルで政権がピンチに陥ると一転して萩生田文書で報道規制をはかった。まさに“アメとムチ”でテレビは政権に物言わぬメディアとして沈黙してしまったのだ。
しかし、メディアが政権批判を自主規制して政治との緊張関係が失われると、政治のモラルハザードは一層進む。今国会でも閣僚の政治資金問題が次々に表面化し、後援会組織による違法献金疑惑を追及された下村博文・文部科学相の秘書官が、その後援会関係者に「取材を受けるな」と口止めするメールを送っていた問題が発覚した。
これも、政治家の側がメディアの弱腰を見て「取材を封じればいい」と安易な疑惑隠しに走るようになった典型だろう。テレビのワイドショーも相変わらず政治報道をとりあげない。このままテレビから政治が消えていくのか。
※SAPIO2015年5月号