乗客乗員合わせた全150人が死亡したドイツのLCC(格安航空会社)ジャーマンウイングス社の航空機墜落事故。
墜落は、アンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)によって意図的に起こされたものという見方が強まっている。すでに世界中のメディアは、副操縦士の精神疾患が「墜落の原因」だとし、「重度のうつ病」だったと伝えている。
しかし、精神科医などの専門家は、「現時点で十分な判断材料があるとはいえない」としつつ、異口同音に「副操縦士をうつ病と安易に決めつけ、うつ病が故意の墜落を引き起こしたと考えるのは医学的に間違っている」と異義を唱えている。
たとえ副操縦士がうつ病患者だったとしても、それが無差別大量殺人の引き金とは限らない。
『無差別殺人の精神分析』(新潮社刊)の著者で、精神科医の片田珠美氏は、次のようにいう。
「うつ病患者のほとんどはこのような無差別大量殺人を起こしたりしません。たとえ彼がうつ病であったとしても“プラスアルファ”の要因によって事態が引き起こされたと考えるのが自然です。
アメリカの犯罪学者ジャック・レヴィンとジェームズ・アラン・フォックスはかつて無差別大量殺人を引き起こす犯罪者の6つの共通項を挙げました。精神疾患の有無に関係なく、これらが重なれば事件を起こす可能性が高まるとされていますが、副操縦士に関する報道を見る限り、ほとんどが当てはまっている」
「無差別殺人犯の6つの共通項」とは、以下のようなものだ。
【1】長期間にわたる欲求不満
【2】他責的傾向
【3】破壊的な喪失
【4】社会的、心理的な孤立
【5】外部からのきっかけ(模倣できる事例の存在)
【6】大量破壊のための武器
「副操縦士は長く社会や給料などに対する不満を抱えていました(【1】と【2】)。視力の問題で、パイロット不適格と判断されるかもしれないという恐怖を持っていました(【3】)。彼は恋人と別れ、そういった悩みを相談する人物がいなかったと考えられます(【4】)。そこにマレーシア航空機が消息を絶つなど模倣できる事例があり(【5】)、彼には航空機という大量破壊のための武器があった(【6】)ということです。
彼がうつ病だったことを否定できないとしても、それだけが原因とはいえない。報道を見る限り、彼には会社や社会に対する復讐願望が見受けられる。もし自分が網膜剥離になってしまったのは過酷な勤務体制のせいだという被害妄想的な受け止め方をしていたとすれば、うつ病というより妄想性障害の可能性もある」(前出・片田氏)
※週刊ポスト2015年4月17日号