北京では昨年来、李克強首相の健康不安説が囁かれていたが、先月の全国人民代表大会(全人代)を機に「ポスト李克強問題」が急浮上してきた。ジャーナリストの相馬勝氏が解説する。
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中国では最近、習近平の個人崇拝熱が高まる一方で、軍内での反腐敗運動の急拡大などで習近平の権力掌握が急速に進んでいる。このためか、党中央財政経済指導小組や中央全面深化改革指導小組などの経済関連の党中央機関の責任者は、これまでは首相が兼務してきたが、習近平指導部体制では習近平自らがこれらの役職を兼務し、習近平への権力の一極集中が際立っている。
逆に言えば、李克強に重要な仕事を与えないことで、任期半ばでの突然の交代劇を視野に入れた習近平の深謀遠慮とも受け取れる。
仮に交代するとすれば、有力候補は習近平が最も信頼する王岐山・党中央規律検査委員会書記(常務委員)だろう。なにしろ、習近平と王岐山は10代のころ陝西省の農村地帯にともに下放して農作業に汗を流し、同じ布団で寝て暖をとって将来を語りあったといわれるほど、関係が深い。
習近平は福建省幹部時代の1998年、文革時代の下放青年の同窓会を開くということで、陝西省政府から招待され、ほぼ20年ぶりに王岐山と再会。王岐山は当時の下放青年出身者のなかでは習近平と同じく出世頭で、広東省の副省長だった。このとき、2人は酒を汲み交わして、昔話を懐かしむとともに、将来に向けて、党中央入りし、ともに新しい中国建設のために汗を流そうと誓い合ったという。
王岐山はもともと優れた金融マンでも、行政官僚でもあり、中央銀行の中国人民銀行副総裁や広東省副省長、海南省党委書記、北京市長、さらには副首相として金融や商務、市場管理などを担当し金融・経済問題で辣腕を振るった。広東省副省長時代のアジア金融危機や北京市長時代の新型肺炎(SARS)などの対応が優れ、いずれも危機を脱したことから、「消防隊長」との異名を持ち、頼りになる男の代名詞のようにもてはやされた時期もある。
習近平体制発足後は規律検査委のトップとして、習近平が最も力を入れている腐敗対策を担当し、これまでアンタッチャブルだった党政治局常務委員経験者の周永康・元政法委員会書記や、軍の制服組トップだった徐才厚・元中央軍事委副主席(今年3月死去)ら“大トラ退治”を成し遂げるなどの辣腕を振るう一方で、“汚れ役”を一手に引き受けている。習近平にとっては、まさに頼りになる「消防隊長」ともいえる人物だろう。
※SAPIO2015年5月号