【書評】『お洒落極道』島地勝彦/小学館/1620円
【評者】伊藤和弘(フリーライター)
〈わたしのお洒落哲学は「美しいモノを見つけたら迷わず買え」である。いまだ沢山の高価な買い物をしているが後悔したことは一度もない〉
週に一度は美容院に通い、コートはアルニスのフォレスティエール、シャツはサルヴァトーレ・ピッコロ、手帳はスマイソンを愛用。2012年には伊勢丹新宿店メンズ館に話題のセレクトショップ「サロン・ド・シマジ」をオープンし、73才になった今も現役バリバリの“伊達男”として名を馳せる著者がお洒落に対する強烈なこだわりと優雅なライフスタイルをつづったエッセイ集だ。
パイプ、メガネ、アウター、シャツ、マフラー、靴、腕時計…。
〈お洒落に関して一点豪華主義ということはありえない〉と書く通り、著者の注意は身につける物すべてに向けられ、まさに一分の隙もない。
特筆すべきは、私のようなファッションの門外漢でも引き込まれる読み物としての面白さだ。藤田嗣治、ウィンストン・チャーチル、ジャンニ・アニエリといった歴史に残る伊達男たちのエピソードはどれも興味深く、欧米に伝わるセクシーな小咄の数々(著者の創作かもしれない!?)も気が利いている。今東光や柴田錬三郎との交遊が臨場感たっぷりに描かれるのも、昭和の文豪たちにかわいがられた著者ならではだろう。
彼のファッションをそっくり真似するには並外れた情熱と財力が必要になるが、その「お洒落哲学」は女性にも応用可能だ。教科書ではなく“ファッションの参考書”として、また一流の美意識を持つ「本物のダンディ」の実像を知る上でも貴重な読書体験となるに違いない。
※女性セブン2015年4月23日号