4月9日、最高裁で下った判決は大きな反響を呼んだ。小6男児が蹴ったサッカーボールでオートバイの85歳の高齢者が転倒、後に死亡した事故の民事訴訟判決である。
山浦善樹裁判長は、約1180万円の両親への損害賠償を命じた二審の判決を破棄し、遺族側の請求を退けた。
「日常的な行為の中で起きた予想できない事故については監督責任はない」との判決を受けて、男児の父親は「世間様と同じ程度に厳しくしつけてきたつもりでした。自暴自棄になりかけたこともありましたが、我々の主張が認められてひとまず安堵しています」とコメントした。
事故が起きたのは2004年、愛媛県今治市の小学校だった。放課後にサッカーをしていた小学6年生の男児がシュートを放ったが、ボールはゴール後方の塀を越えてしまった。その時、校門前をオートバイで走行中だった85歳の男性はボールを避けようとして転倒。脚を骨折して入院した。
事故はもちろん男児が蹴ったボールが原因である。両親と男児が見舞いに行った際、男性は男児に「男の子は元気なくらいがちょうどいい。こんなんでくじけちゃいかん」と逆に元気づけたという。だが、骨折によって寝たきりとなった男性は、事故から1年4か月後に肺炎で死亡した。
男性の遺族5人は、2007年に損害賠償を求めて男児とその両親の3人を大阪地裁に提訴した。2011年6月に同地裁は男児への請求は棄却したものの、両親に約1500万円の賠償を命じる判決を下した。
二審の大阪高裁も2012年6月、両親に約1180万円の支払いを命じている。一、二審とも男児に過失があり、両親には監督責任があったと判断した。
法的な救済を求める遺族の感情は理解できる。一方で、校庭で遊んでいて起きた事故に対して保護者が負うべき責任として大きすぎるのではないかと議論を呼んだ。
民法714条では、責任能力を欠く12歳未満の子供が事故などを起こした場合、監督義務者(この事件の場合は両親)が賠償責任を負うと定めている。だが、この条文を疑問視する司法関係者は少なくない。
日弁連「子どもの権利委員」を務める三坂彰彦弁護士もその一人だ。
「この条文のため、サッカーのような行為自体に問題がない場合でも、イジメや暴力といった犯罪や不法行為の場合でも、どちらも無条件で保護者に責任が求められてきました。それらは本来分けて考えられるべきものなのです」
※週刊ポスト2015年4月24日号