テレビが今ほど普及していなかった時代、子供たちの楽しみのひとつが街頭での紙芝居だった。最盛期の昭和30年代、全国に5万人といわれた紙芝居師も今や数人。永田為春さん(87)は東日本でただ一人、62年前から子供たちに紙芝居の世界を伝え続ける。
「若い頃は旅芸人など30以上の職を転々としていましたが、駄菓子の卸業をしていた時に友人に勧められて始めました。当時はベビーブームの後で子供も多くて、収入はサラリーマンの月給より多かったんですよ」(永田さん)
毎週水曜日、自宅近くの東京・江戸川区の公園に紙芝居道具一式を積み込んだ自転車で訪れる。拍子木を鳴らすと、子供たちが駆け出して集まる。
「おじちゃん、黄金バットやってよ!」
駄菓子を手に、役によって違う声色で進むストーリーを食い入るように見つめる。最近、永田さんには「ジャンボさん」こと、岡本りおさんという弟子ができた。
「紙芝居って、子供たちが喜んでくれるお菓子を準備するのが大切な仕事なんだと知りました。子供たちの笑顔を見ていると幸せな気持ちで満たされるんです」(岡本さん)
撮影■江森康之
※週刊ポスト2015年4月24日号