普天間飛行場の辺野古移設に反対する翁長雄志(おなが・たけし)・沖縄県知事に対し、「会わない、話さない、目も合わさない」と揶揄されるほど徹底した会談拒否方針を貫いてきた安倍政権だったが、4月5日に急遽、方針を一転させて菅義偉・官房長官が沖縄を訪問。翁長知事と会談した。
直接対話で懐柔しようとしたわけだが、裏目に出た。基地移設について「粛々と進めていく」と語る菅官房長官の姿勢に対し、翁長知事が「上から目線」だと批判したことが注目された。
翁長知事は、1960年代に高圧的な占領統治で沖縄県民から反発を招いたアメリカのキャラウェイ・琉球列島高等弁務官を引き合いに、「粛々という言葉には問答無用という姿勢が感じられる。上から目線の粛々という言葉を使えば使うほど、県民の心は離れて怒りは増幅される」と語り、「粛々」というキーワードが新聞・テレビで大きく報じられた。
菅官房長官にごく近い官邸筋は、「『粛々』という言葉があんなに波紋を広げるとは思わなかった。テレビに繰り返し取り上げられたことで『安倍政権は強引だ』というイメージが定着してしまった」と語った上でこう続けた。
「菅さんが心配したのは統一地方選への影響だ。アベノミクスの恩恵が感じられない地方にとっては、“いざとなると安倍政権は田舎を切り捨てる”というイメージがつくのはまずい。地方議会の自民党候補者からも、『こんな時期に失点を重ねるのはやめてほしい』という声があがり始めた。だから『粛々』は当面使わないことになった」
菅官房長官が翌6日の会見で「粛々と」発言を封印すると語り、7日には「関連法令に基づき、自然環境や住民の安全に配慮しながら進めていく」と微妙に言い方を変えたのは、必ずしも反省したからではなく「票のため」だったのだ。
やはり「粛々と」が定番フレーズだった中谷元・防衛相も「予定通り堅実に工事を進めたい」と表現を変えた。
国防ではなく自民党の利権のために辺野古移設を推し進めている政府・自民党は、もちろん工事をやめるつもりも翁長氏や沖縄に歩み寄るつもりもない。
※週刊ポスト2015年4月24日号