ライフ

市原悦子を語り手にイメージして書かれた山田詠美さんの新刊

【著者に訊け】山田詠美さん/『賢者の愛』/中央公論社/1620円

 恋人でも家族でも友達でもない、しかし最も親密な男女関係というものが存在するとしたら? 教師と教え子、もしくは奴隷。冒頭から危険なキーワードが示されている。

「男が若い女を教育してどうのこうのって話は昔から沢山あるでしょ。だけど男にとって都合が良すぎると思うことも多かったので。女が男を手ほどきするという物語を考えた時に、頭に浮かんだのが『痴人の愛』。タイトルも書き出しも、そこで決まりました」

 言わずと知れた文豪の代表作に真っ向から挑んでの快作。奇しくも今年は谷崎潤一郎没後50年に当たる。

「本当にたまたまなんですけどね。小説を書いていると時々、不思議なシンクロニシティを感じることがあります。書きながら昔のことを思い出して、あの時のあれはこれを書くためだったんだなと思ったり。10年以上前に河野多恵子さんと対談をした時に谷崎の作品をまとめて読んだ、その体験が今回に繋がった」

 堅物の中年男が15才の少女ナオミを引き取って、自分好みの女に育てる、というのが『痴人の愛』。対して『賢者の愛』の主人公は、親友の息子に「直己」と名付け、その立場を借りて自分好みの男に調教していく。言葉を教え、贅沢を教え、女の体を教えるその手管は圧巻。年頃の息子を持つ母親が読んだら、ゾッとするのではないか。

「最初の一行を書いた段階で、これは書きようによってはきわどくて、露骨で、汚い話になると思いました。だからきれいな言葉で語りたかった。語り手としてイメージしたのは市原悦子さん。『日本昔ばなし』の素朴さ、『家政婦は見た!』の覗き見感覚がぴったりだなと思って。

 共感出来ない登場人物ばっかりでしょ? 今までは、たとえ殺人を犯した人でも、どこかで許しの余地があるように描いてきたんですけど。今回は良い悪いとか好き嫌いというジャッジを入れないで、ただこういう人たちがいるということを誠実に書くことを考えました」

 読者の共感を呼ぶキャラクターは既に何人も描いてきた、山田詠美さんだからこそ可能な域といえそうだ。「人間関係は全てギブアンドテイク」との言葉どおり、結末では教える者と教えられる者、差し出したものと受け取ったものとが等号で結びつく。ベストセラー『ぼくは勉強ができない』の時田秀実が脇役に登場するのも、ファンには喜ばしい。

「この作品の中では唯一、共感できる人物かも。私のサイン会ってゲイの子が多いんですよ。『ぼくの初恋は秀実くんでした。いい男に育ってて嬉しい』って言われちゃった。男を育てるコツ? 育てられる才能のある男かどうかの見極めが肝心」

(取材・文/佐藤和歌子)

※女性セブン2015年4月23日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン