ロケットの打ち上げといえば、通常1段目(ブースター)は打ち上げ後に燃え尽きるか洋上に落下するかのどちらかだが、これを軟着陸させて再利用しようという画期的な実験がアメリカで行われている。
4月14日、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から発射されたロケット「ファルコン9」。NASA(米航空宇宙局)からの依頼を受け、ドラゴン宇宙船で国際宇宙ステーションに物資を輸送する使命を負っていた。
打ち上げの結果はというと、発射自体は成功して物資も無事に届けられそうだが、肝心の1段目は洋上プラットフォームには着陸できず、大西洋上に設置されたバージ(はしげ)に激突して大破した。今回で3度目の失敗である。
こんな前例のない挑戦を果敢に続けているのは、若きCEO(最高経営責任者)、イーロン・マスク(43)率いるスペースXなる宇宙ベンチャーである。マスクの名は日本でも聞き覚えのある人が増えたのではないだろうか。1台700万円以上する電気自動車(EV)「モデルS」を昨年9月から日本でも販売しているテスラ・モーターズの創業者でもあるからだ。
マスクの経歴については過去に当サイト(2013年11月10日)でも紹介したが、1995年にネット決済サービス、ペイパルを創業して財を築いた後、2002年に低コストのロケット開発を行うスペースXを設立。「2020年に人類を火星に送り込む」との壮大な夢を描いている天才起業家だ。
『史上最強のCEO イーロン・マスクの戦い』(PHP研究所)などの著書がある経営コンサルタントの竹内一正氏(オフィス・ケイ代表)がマスクの手腕をこう評価する。
「シリコンバレースタイルで、とにかく失敗を恐れずに新しいことにチャレンジしてみるのがマスクの経営スタンス。ロケットの再利用にしても、安いコストにしなければ多くの人類を火星に送ることができないと本気で考えているので、大きな目的を達成するための手段に過ぎません。
だから、いくらロッキード・マーチンやボーイングといった伝統的なロケット企業が無謀だといってもお構いなし。基本技術に立ち返ってロケット開発をした結果、コストは従来企業の約10分の1に抑えることに成功しています。いまやスペースXとマスクはNASAからの信頼を得て、“宇宙の宅急便”事業で主導権を握るまでになっています」
大言壮語、荒唐無稽――。かつてこんな批判も受けてきたマスクだが、有言実行を重ねることによって、世界中のベンチャーキャピタリストやエンジェルたちから期待される存在になっている。
「マスクの特徴は、いつまでに何ができるという目標を必ず明言してエンジニアの尻を叩くこと。現実にできるかどうかはアプローチ次第の部分もありますが、会社の利益や株価を最優先して1を2にするだけのビジネスモデルしか示せない企業が多い中、マスクのビジョンに共感する人が多いのです」(前出・竹内氏)