次世代自動車と期待されるEVと並ぶ新技術であるFCV(燃料電池車)の未来はどうなるのか。
今年1月7日、経団連の御手洗冨士夫・名誉会長と榊原定征・会長が、石油元売り最大手、JXホールディングスの渡文明・名誉顧問とともに安倍晋三・首相と会談した。ジャーナリストの須田慎一郎氏が語る。
「会談の内容は報じられていませんが、トヨタが昨年末にFCVの市販を開始した直後でもあり、水素ステーション拡大に向けての支援を要請したと聞いています」
水素ステーション建設には1基約5億円かかるとされ、経産省は「水素供給設備整備事業」に対し最大2億8000万円を補助している。補助事業の総額は2013年度が46億円だったが、2014年度は72億円と大幅に増額された。それをさらに拡大すべく、経団連全体でバックアップし、政府の支援も取り付けようとしているわけだ。
また、トヨタが販売する「MIRAI」には国から約200万円の補助金が出ている。さらにトヨタのお膝元である愛知県では、国の補助金に加え、県から約75万円の補助金が上乗せされる。それは、「愛知県の大村秀章知事の票田はトヨタ労組。トヨタに恩を売るとともに、愛知を水素利権の集約地にしようと目論んでいるのではないか」(地元関係者)という事情があるからだ。
この補助金をめぐって、財界だけでなく永田町も浮き足立っている。
安倍首相は、経団連会長らとの会談後の1月15日、首相官邸で開かれた「MIRAI」市販1号車の納車式で、「環境にも優しい新しい時代を切り開いていくものだ」と絶賛した。ずいぶんわかりやすい流れである。2013年6月に発足し、小池百合子、福田峰之両議員が会長、事務局長を務める「FCVを中心とした水素社会実現を促進する研究会(水素議連)」には、すでに100人超の“水素族議員”が参加している。
石油・天然ガスの元売りや自動車メーカー、その下請けメーカーといった、いわば“オールドエコノミー”のプレーヤーたちが政治家を動かし、まさに国策としての水素社会が推進されようとしているのだ。
※SAPIO2015年5月号