いまやテレビ業界は「コメンテーターの良し悪しで番組が決まる」とまで言われている。しかし、いざ出演すれば、今度はテレビ特有の条件や制約がつきまとう。
文化人枠として多くの番組でコメンテーターを務める経済アナリストの森永卓郎氏は、「民放最大のタブーはスポンサー」と強調する。
「以前、日本の自動車メーカー提供のコーナーで『明治時代のT型フォードにはバックギアがなかったので前進しかできなかった』と発言したら、事実にもかかわらずスポンサーに配慮したスタッフから厳しく注意された。
100年前の話だから大丈夫だろうと思っていたが、他社の社名を挙げたこと自体まずかったようです。以降スポンサーに関しては最大限気をつけています」
さらに森永氏は、凶悪犯罪がらみのコメントにもタブーを感じている。
「殺人事件の容疑者に精神的な障害が疑われるときや、状況証拠は十分だけど容疑者がまだ逮捕されていない場合などは、無罪や冤罪もあり得るため、容疑者への非難はしづらい」(森永氏)
一方で、そうした難しいテーマこそコメンテーターの出番なのだと、ワイドショーのディレクターは言う。
「どの番組も中立が建前なので、凶悪犯罪や企業の不祥事など、デリケートな話題では局アナのコメントを禁じ、コメンテーターに話を振って個人の見解として解説してもらっています」
もちろん、そのなかにもやはり、タブーは存在する。
「ISIL(イスラム国)による日本人人質殺害事件の際には、『ISILに同調しているという批判を避けるため安倍内閣批判は慎むように』と事前にコメンテーターに通達した」(情報番組ディレクター)
また最近では、勝谷誠彦氏の『スッキリ!!』(日本テレビ系)降板のように、自分の意見を曲げず、はっきりと物言うタイプの人は敬遠される傾向にある。
ワイドショーでコメンテーターを務めるジャーナリストの青木理氏は、自らの役割についてこう話す。
「たとえば川崎の(中1生徒殺害)事件の場合、『昔じゃ考えられませんね』『少年犯罪が増え、凶悪化してますね』という話になりがち。でも少年犯罪は統計として増えていないから、事実に基づいて『いや決してそうじゃない』と指摘するのが僕の役割だと思っています。
一面的な見方や感情論に一石投じるのも、影響力の大きなワイドショーでコメンテーターをする意味だと思います」
※SAPIO2015年5月号