既に報じられている通り、運転停止中の関西電力高浜原子力発電所3・4号機(福井県高浜町)について、今月14日、福井地方裁判所(樋口英明裁判長)が再稼働の差し止めを命じる仮処分を決定した。“新規制基準は緩やかにすぎ、安全性は確保されていない”という理由だ。今回の決定に関し、一つ指摘すべき点があると、エネルギー政策に詳しいNPO法人社会保障経済研究所の石川和男氏が解説する。
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原子力規制委員会は今年2月、高浜3・4号機の再稼働に向けた事実上の合格を出した。東京電力福島第一原発事故後に、より厳格なものへと改定された新基準を満たしていると認められたからだ。
この新基準は、地震や津波の想定を拡大し、これを大幅に上回った際の対策を求めている。しかし、福井地裁は新基準の考え方を否定し、“これに適合しても安全性は確保されていない”とした。
この判断には賛否両論が渦巻いている。市民感覚に寄り添った画期的な判断だと賞賛する声もあれば、ゼロリスクを求めている点で実社会でのルールとしては全く通用しないものだと断ずる声など様々だ。
この新基準について、安倍晋三首相は常々、国内でも外国でも、「世界で一番厳しい基準」と語っているが、その安全性は一つの下級審の場であっさり否定されたわけだ。司法判断が行われる場合には、原子力発電に係る科学や技術の知見、原子力発電を巡る雇用や経済の効果は何ら考慮されないことが、この仮処分決定から読み取れる。
今回の福井地裁の決定については、当の原子力規制委員会の田中俊一委員長が翌15日の会見で幾つかの反論をしている。
例えば、【1】“使用済燃料プールの給水設備の耐震性を最高クラスにしていない”として“規制方法に合理性がない”と断じたことに対し、「給水設備は最高クラスに分類している」と述べ、【2】想定する地震の最大の揺れ(基準地震動)について“信頼性を失っている”と指摘されたことについては、それを誤認だとし、「(決定には)事実誤認がいっぱい書いてある」と語った。
ところで、事実関係だけを言うと、上記の田中委員長の語っていることは全て真実である。即ち、福井地裁は誤認をしているわけで、原発の賛成派にとっても反対派にとっても、原発が好きな人にとっても嫌いな人にとっても、『福井地裁は誤認を基に仮処分を決定した』というのが、動かし難い真実である。
今回の仮処分決定は、原発反対派の人々にとってはたいへん喜ばしいことなのだろうが、その根拠が誤認に基づくものであることを理解しているのだろうか?
国の耐震指針作りにかかわった入倉孝次郎・京都大名誉教授(強震動学)のコメントが14日付けの産経新聞ネット記事に掲載されている。要は、「新基準は原発の耐震設計の基本となる基準地震動について、科学に不確実性が伴うことも考慮して地震の揺れをより厳しく計算するよう求めている。原子力規制委員会が認めた地震動は、原発が立地する地盤の特性を踏まえた上で考えられる最大程度の揺れといっていい。決定は新規制基準を不合理としたが、明らかな事実誤認」であると…。
この入倉教授の言も、やはり真実である。
いずれにせよ、関西電力は不服申し立てをするものと見られ、今後、上級審に場を移して改めて判断がなされることになるだろう。上級審での判断が、どのようなことを根拠とするのか、注目したい。再稼働が認められようが認められまいが、どのような内容の決定であれ、誤認に基づく判断ではなく、真実に基づく判断でなければならないはずだ。